左右、あるいは正面

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 ムネオは答える。 「いやだから、先に右からだろ、わけわからん」  僕も言う。 「先に右なのはそうなんだけど、その右をどちらとするか、だろ? そこがおかしいんだよお前は」 「なんでだよ、おかしいのはお前だろ」  どうにも平行線のようだ。  おそらく、ムネオと僕では前提条件が違う。どちらから先に手をつけるかが根本的に異なるようだ。  であれば、この議論はずっと噛み合わない。 「……どうでもいいけど、あと15分もある。退屈過ぎる……」  左利きがまた口を挟む。 「だから開店までにこの左向き野郎を右向きに矯正してやらなきゃ、気持ち良く食べられないだろ!?」 「是正されるのはお前だ、右向きクソ人間」  むしろ、あと15分しかない。 「でも出てくる時って、大抵真ん中、というか正面だよね」 「だからその後大抵右か左に動かすだろ!」 「その一手間すら惜しいならもう食うな、帰って寝ろ、左利きは黙って帰ってアホみたいに正面向けて無駄に寝ろ」  頭のおかしいナスダは置いておいて、僕はムネオに聞く。時間は無い。開店前にこの話の決着させねば落ち着いて食べられないのは、僕も同じだ。 「福神漬けは?」 「あ……?」 「絶対にご飯側に乗せるよな、それが奥側にあると、取り辛くて仕方がないだろ? だから左向きが正しいんだって、わかれ」  これは反論できまい。
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