左右、あるいは正面

「ハヤシライスは？」

「は？」

　ナスダのわけのわからない疑問に、僕もムネオも同時に聞き返す。

「ハヤシライスはどうなのさ？ 左とか右とか、気にするの？」

　……何を言っているんだ、こいつは。

　僕はナスダを諭(さと)す。

「あのさ、今はどうでもいいんだよハヤシライスなんか。あんなもの、スターに成りきれなかった紛(まが)い物じゃないか」

「いや、でも美味しいと思う」

「いや例え旨くてもだ、今日限りの復活メニューに、ハヤシのダブルサイズがラインナップされてるか？ されてないだろ。無料だぞ、ダブルサイズへの増量が。そこをわかれよ。てか以前もハヤシライスのダブル無料なんて無かっただろ？ それが民意なんだよ」

　ナスダは根本的にズレている。増量無料復活祭に名を列(つら)ねていないメニューなど、今はどうでもいいのだ。
　仮にハヤシライスもダブルサイズ無料であれば、僕もこんなにナスダを冷たくあしらう必要もないのだが、残念ながらハヤシライスはダブルサイズ無料ではないので、それはもうナスダを適当にあしらうしかないのだ。