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「そう言えば、なんで今日だけ増量無料が復活するの?」
ナスダはやはりズレている。
一日限りの復活とはいえ、増量無料なのだからありがたく享受すべきであって、理由などどうでもいい。というより、よく考えれば僕も知らない。知らないが、理由なんて何でもいい。増量無料であるのなら、何でもいい。
ムネオが言う。
「なんか、店長の息子さんが大学に受かったらしいぞ」
「クソどうでもいいな」
思わず、言葉に出た。
「それ、店の中では絶対に言わないでよ……」
ナスダに窘められる。
その通りだと思った。たまにはこいつも、的を射る。利益が無いと悔やんで廃止した増量無料サービスを、わざわざ復活させた程の喜びに水を差してはならない。あくまで我々は、息子さんの吉事を祝うついでにダブルサイズを頂戴するというスタンスを取り、店長も我々も良い気分にならなければならないのだ。それが紳士の努めであり消費者の鑑と言える。
ふと周囲を見ると、まだ開店10分前だというのに、既に我々を含め2、30人もの人が並んでいた。この街にはまだまだ沢山の紳士がいたようだが、普段この店に行列ができているところなんて見たこともないので、なんだか悲しくなってきたのは、もう仕方がない。
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