第12章

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第12章

「──ま、待って下さい! どういうことですか?」  アリカはすがるように尋ねた。 「生徒会長自らが罪を犯した。学園に自治を任せた結果がこれでは、廃校は免れまい」 「でも殺人の件は、ユードラさんって決まったわけじゃ……!」 「きみの仕事は髪切り魔を見つけることのみだ。そして任務は完了した。違うかね?」    異見は受けつけない口ぶりだった。  エルアードは、青ざめるアリカの頭にぽんと手をおく。 「列車は五時だ。それまでにもどって来なさい。これを逃すと人間界へは帰れないよ」 (まさかこんなことになるなんて)  アリカはふらふらとキャンパスへもどった。  だが露店へも劇場へも行くことができず、足は自然と《黒妖犬(ヘル・ハウンド)》の部室へ向かう。    みな店へ出払っていて誰もいないと思っていたが、カーンが窓の桟にすわっていた。ニワトコの木の枝を手に。  アリカはドキリと硬直する。    カーンが窓からひらりと飛び降り、アリカの目の前に枝を突きつけると、さっきのエルアードとの会話が流れて来た。  カーンは鋭い声音で、近づいて来る。 「この内容は真実か?」  もう言い逃れはできない。 「警官だと? 初めからおれたちを騙していたのか」 「……あなたの言う通りよ」 「おれは言ったはずだ。アカデミーに害を為す存在なら容赦はしないと」    こんなつもりじゃなかった、今もユードラを助けたいと思っている。  そうのどまで出かかったが、何を言ってももう遅い。 「ごめんなさい……」  アリカは黙って(こうべ)を垂れた。謝ることしかできなかった。    自分さえ来なければ、こんなことにはならなかったはずだ。  後悔に心が凍って涙も出ない。    カーンの瞳が、いっそう冷たさを増した。 「泣いて言いわけでもしたらどうだ」   泣いても許さないのはよく知っている。カーンの右手が動いた。  今度こそ本当に殴られる──    だがにぎられたこぶしは開き、気づけばアリカの背中にまわっていた。  カーンはアリカをぎこちなく抱きしめ、肩ごしに低くつぶやいた。 「ちゃんと説明しろよ。なんのためのギルドだ? たいして大きな器でもあるまいし、だだもれなんだよ」  彼はいつかの仕返しのように意地悪く笑った。ひと言余計だと思いながら、アリカの目に涙がたまる。 「ひとりで悩むな、事情があるんだろ。おれじゃ役不足かもしれないが、みんながいる」  彼の獣毛に包まれたときと同じ安堵感が躰を巡り、同時に熱を持った奔流が駆け上がって来るのを感じた。    そうだ、今悲嘆に暮れている時間はない。  アリカはぐいと涙をぬぐい、これまでの経緯をすべてカーンに話した。 「……ありがとう、信じてくれて。わたしは留学生ではないけれど、この学園が好き。絶対に廃校になんかしたくないの」 「わかってる。お前は隠し事ができるほど器用な頭じゃないからな」  その信頼のされ方には少々もの申したかったが、カーンは話の先を急ぐようにニワトコの枝を床に放る。 「これは、誰かが部室に置いていったんだ」  はっきりとした意図はわからないが、アリカを陥れる目的なのは間違いないようだ。 「嫌な感じだ。気をつけろよ。お前はもう、おそらく相手の罠の中にいるぞ」 「だったら、それを利用してみる」  劇場へ向かうアリカへ、カーンが身を翻らせる。 「おい、まさかこんなときに舞台に出るつもりか」 「考えがあるの」
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