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トップのカンパネラ組を筆頭にクラスは分けられていた。ユードラはもちろん、ガトーやヒルダも上位に名を連ねている。
各教室は、ホテルの部屋のように上からグレードが決まっていた。
カンパネラがキャンパスを見下ろす校舎の最上階であるのに対し、
「ここが教室……」
コケモモ組は、離れの古い校舎にぽつんと位置していた。
ほかの教室とは、簡単に行き来できないほど遠い。
ガタついたドアを開けると、なんとも殺伐とした空気だ。見るからに人相の悪い者、鋭い有角種や異様な巨躯の持ち主。
クラスのほとんどが制服をだらしなく着崩し、黒い石のチョーカーをつけた《黒妖犬》が半数を占めている。
(魔窟……)
無意識に首環に手をやると、教室の一番後ろの席に灰色の頭が見えた。
カーンが机に足を乗せ、あからさまに不敵な笑みを浮かべている。
(シカトよシカト)
「──おいニンゲン、あんパン買ってこい」
無視を決め込んだはずのアリカのこめかみが一瞬ぴくりと上がるが、にっこりと余裕の笑みを返す。
「お昼にはまだ早いんじゃない? ボク。それにその頼み方何様──ふがっ」
いきなりヘーゼルに口を塞がれる。
「ぼっ、ぼく買って来ます! アリカさん、購買部の場所知らないんで!」
「ヘー──ゼル、お前には頼んでいない。そのニンゲンに、言っている・ん・だ」
ほかの学生たちはカーンを恐れているのか、事のなりゆきを見物しているだけだ。
どう動くのが正解か。
これくらいの脅しで事を荒げるのは得策ではないかもしれない。
(これも異世界の洗礼と思えば)
アリカは財布を取り出すと、カーンへ手のひらをさし出した。
「買って来るからお金下さい」
「ああ、おれとしたことが」
カーンはわざとらしく眉間に指をあて席を立ち、アリカの財布をさっと奪い取った。
「何するの、返して!」
「言ってなかったな。メンバーの金はギルドのものだ。つまり、お前はギルドのために貢ぐ義務がある」
「そんな義務ないわよ!」
「お前の頭の中身は餡でもつまってんのか。ここは特区だ、ニンゲンの法が通ると思ってんのか?」
(彼女からお金を巻き上げるつもり?)
アリカは、ヒルダの言葉を思い出した。
《黒妖犬》はメンバーの稼ぎを、資金として徴収する悪徳ギルドなのだ。カーン曰く、ヒルダのギルドもそうらしいが。
しかしどちらにしろ、エルアードからわたされた出張費は捜査のためであって、こんなことに使うつもりはない。
(下手に出れば……!)
噛みつきかねないアリカに、ヘーゼルがそっと耳打ちしてきた。
「とりあえずこの場は言う通りにしておいたほうがいいです。カーンに歯向かうと、だいたい面倒なことになるんです」
「冗談じゃないわ。あんな暴君チビ、野放しにしたら学園の秩序が……」
そうこう、やり取りしているうちにチャイムが鳴り、カーンは意外にもおとなしく引き下がった。
何事もなく過ぎる午前の部。ヘーゼルはおろおろと両者を交互に見返していたがアリカは泰然とした姿勢が大事だと、山のようにかまえていた。
だがランチタイムの鐘と同時に──
「……何よこれ!」
財布を獲られ、昼食を考えあぐねていたアリカの机の上に、あんパンが山と運ばれてきたのだ。
カーンが手のひらで顔を覆い、寸劇のようにわざとらしく泣き声を抑えた真似をする。
「パンひとつ買えないお前が哀れでな。ギルドからの入団祝いだ」
「──そ、そんなのあんたのせいじゃない! だいたいこんなに食べきれるわけ……てか誰の金で買った!」
獲った財布をこれ見よがしにひらひらさせるカーンに、アリカは食ってかかった。
「消費できないなら、あいつらに分けてやったらどうだ?」
カーンが親指を向けた先を見ると、廊下に人だかりができている。しかも、醸し出すオーラが尋常でない。
「何、買い占めてんだ!」
「昼の楽しみだったんだぞ!」
人気商品なのだろう、みな憤ってアリカへ苦情をまくし立てる。
「ち、違うんです。これはあいつが……」
「うるせえ! こっちにもよこせ!」
どのみちこの量をひとりで食べるのは無理だ。
机に集る学生に順にあんパンを配ると、文句を言いながらも集団は捌けていった。
我に返れば、パンも代金も残されていない。
(……なんかおかしくない?)
これでは、自分がみんなにごちそうしたようなものではないか。
独り占めしたという、不名誉な事実だけ残されて。
しばらく惚けたように何もない卓上を見ていると、カーンの声が頭上を過った。
「放課後、ギルドに来い。一五八号室だ」
異世界留学二日目、敵は倍に増えていた。
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