要恭弥

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要恭弥

「司! 二段トスお願い!」  仲間が必死こいて繋いだボールは、セッターポジションである摂田繋(せったつなぐ)が取ることなく、司守将(つかさもりまさ)にトスを託した。後衛で守備する司が後ろから丁寧にエースの要恭弥(かなめきょうや)へと繋ぐ。  後ろからくるボールに苦手意識を持っている場合ではない要は、最初の数歩を遊ばせてタイミングを図った。これで甘いスパイクを打てば相手にチャンスを与え、馬鹿正直に自分の正面に打ち込めば簡単にブロックに捕まる。  リスキーだが、要は咄嗟にクロス方向鋭角に打ち込み、ブロックを全て躱して得点を稼いだ。 「……」  メンバーは二段トスから得点を決めた要に群がって喜ぶが、当の本人は集中を切らさない。しかし、この一点を決めたところで、次の得点を奪われたら敗北するという状況は依然変わらない。もっというなら、今日の公式戦では点を決めても表情は険しいまま。  サーブ権がこちらに移ったタイミングで、要はベンチ側に視線をやる。「監督!! コイツをベンチの誰でもいい! セッターやれる奴と替えてくれ!!」。    痺れを切らしたように、セッターである摂田を指差して監督に切願する。  本来なら、二本目に触るのが本職であるセッターの摂田が、スパイカーへ繋げるのが妥当だった。しかし、すぐ後衛にトスを任せる他力本願なプレーは、団体競技においてあまりにもいただけなかった。  だが、監督は即答のジェスチャーで「×」を両腕で作る。「お願いします!」と要が食い下がっても、監督の決定は覆らないまま、仲間のサーバーが位置についた。  苦虫をすり潰して嚥下するような苦痛に耐えながら、隣で要と同じように、だが明らかに華奢な体でブロックにつくセッターの摂田を睨め付けた。「俺は仕事サボる奴が嫌いだ」と嫌味をこぼして。  これに摂田は反応こそしないが、言われている自覚はあるようで言い返しはしなかった。 (あと一点取られたら負けだっつうのに余裕ぶっこきやがって。)  ちょうど、サーバーが構えたところでタイムアウトの笛が鳴った。一番タイムを取るべきではないこちらのタイムアウトだ。要はタイムアウトよりも選手交代を望んでいるが、監督の一喝があるならと多少の期待を寄せてベンチへ下がる。 「こっちはあと一点取られたら負けだ。そんな時にタイムなんてこっちから取るべきじゃなかったのに取った。この意味をよく考えてお前らで話し合え」  監督は淡々と伝え、あとは素知らぬ顔でパイプ椅子にどっかりと座り込んだと思えば、すぐに立ち上がり審判の方へ何かを伝えに行った。  その後の口火を切ったのは主将の司。「摂田、何か言うことはないか?」。 「あるよ。さっきのは僕が行くより司がトス上げた方が体勢も整ってるし、合理的だと思ったからお願いしただけだもん」  頬をリスみたいに膨らませているが、要の堪忍袋の尾はとっくに切れている。    「どんな体勢でもトスを上げられるからセッターなんじゃないのか。それを体勢が整ってるから他の奴に任せたなんて」と詰め寄るとぐうの音も出さない摂田。 「仕事しない奴は要らない」 「でも、僕はちゃんとやってる!」  それでも明後日の方向を向いて頑として怠慢を認めない摂田に、「セッターって司令塔の役割だよな? その役割に胡座かいてサボる奴って必要か?」とメンバーに問いただした。  断罪イベントのようになってしまったが、もう後には引けない。そこまでしてでも要は今日の「勝ち」に拘っていた。 (繫は昔から何でもそつなくこなすくせに、いつも一歩引いて何のつもりだ)
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