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摂田繋
今日は小さい規模の公式戦で、今は後のない戦いを強いられている状況で、「仕事しない奴は要らない」と幼馴染みである要に突き放されたところだ。
中学生の頃まではお互いに部活を楽しんでいたが、高校生になって何に感化されたのか、「ガチ勢」に早変わりしてしまった要。
それについていく仲間の気が知れないのは摂田だけ。
勝ちに拘り出してからは、摂田を遊びで対人に誘わなくなった。
元々体格的にもテクニック的にもセンスのあった要。それに気付いた摂田は、小さい頃からひとり自主練を重ねていた。要と違って体格の華奢だった摂田は、凡庸なセンスと平均以下の背丈を鑑みて、努力で要の隣に立つことを決意したのはまだ記憶に新しい。
そこまでして、幼馴染みと同じステージに立つことは劣等感から逃れるためだけではない。だが、これ以上の感情はまだ、自身の中で昇華しきれないので、せめて「バッテリー」のような相棒的立ち位置で居させて欲しいのだ。
それが高校に進学してからは、要との体格の差は顕著になり、さらに要はバレーに本腰を入れ出した。サラッとエースとしての頭角を見せ始める要に物悲しい気分にさせられる。
要の隣に立つためには今まで以上の努力をしなければ要の隣には釣り合わないことは必至だった。
しかし、これまでだって寝る間も惜しんで自主練した。基礎を叩き込んで、どんな時でもミスしないように。そこに要が頭角を現したら——これより先の事は不安が募るので考えるのをやめ、日々自主練に打ち込んだ。
その成果を今、存分に出せば済むことだが、その気分にはどうしてもなれない。
「うちに摂田と同等にセッターが出来る奴なんていねぇことなんて、要が一番わかってることだろ? うちはそんなに大きくないチームだし、何より摂田は上手いんだぞ」
諮問会のように摂田の進退を勝手に話し合われている。「クソ!!」と嘆く要に酷く胸を抉られた。
「恭弥、僕ってそんなに——」
遮るように要がプラスチック製の水筒をベコッと握る。
「——でねぇと俺のせいで負けちまうッ」
この時の要の表情はどうだったか、俯いていてよく分からなかった。
エースの握力で握られた要の水筒は、見ているこちらも喉が締まりそうだ。
(俺のせいで? 僕が拗ねてみんなに迷惑かけてるのに?)
摂田は意を決して、メンバーの輪を抜け監督に話しかけた。「監督、もし次もうちが点を取れたら、一回目はこれで時間来ちゃうんで、二回目のタイムもすぐください! ……テーピングを巻き直したいです」。
監督はこちらを見て、「分かった」とだけ言うと、摂田の肩に優しく手を置いた。
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