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三十路ですが
三十路女、板垣優子。本日初の試み。
THA・乙女ゲームを。
『君はありのままでいいんだよ』
スマホの画面からそんな言葉を言う二次元彼氏。
「あ、り、が、とう」
彼にそう送ると『好きだよ優子』っと返ってきた。
はぁと深いため息がつく。
何してんだ私…しかもお仕事中に。
するとドンっとと誰かが私の方に手をおいた。
肩をビクッとさせ恐る恐る後ろを向くと、武津くんがそこにいた。
「イヤホンつけて何してんのかと思ったら…乙女ゲームですか?」
「しーーーーー!!!」
思わず彼の口を塞ぐ。
そして周りをジロジロと見て誰にも見られてないと分かると、彼の手を引き場所を変えた。
「なに板垣さん?もしかして欲求不満?」
なにか面白そうなものを見つけてかのような目で、彼は私を見る。
「…恋愛っていうものをしてみたかっただけよ」
「嘘だぁ〜!」
はぁ…一番関わりたくない人間に見られてしまうとは…。
「このこと、誰にも秘密だからね」
人差し指を立てながら言うと、彼はムフッと笑った。
「何?気持ち悪いんだけど…」
「いやー俺と板垣さん二人だけの秘密ってことですよね。
なんか嬉しいなぁ…って」
ヘラヘラと彼は笑う。
「ふっ」
え、今私笑った?
思わず溢れた笑い声に、自分でもびっくりした。
「じゃあそろそろ戻らなきゃ」
「あ、俺はブラブラしてまーす」
「仕事は?」
「もう終わりました〜」
生意気!…だけど仕事を終わらせてない私が言えない。
「そっ」と私はそっけなく返し、デスクに戻っていった。
そして曲がり角を回った時、後ろからある声が聞こえた。
『ねぇ武津さん』
『何?』
それは武津くんと一人の社員の声だった。
『武津さんって…なんでよく板垣さんの近くにいるんですか?』
『ん、なんで?』
『だって正直板垣さんって…武津さんとジャンル違くないですか?』
『ジャンル?』
『はい。武津さんはよくできる人で、かっこいい。
けど、板垣さんって地味で…正直オバサンじゃないですか〜』
なっ!…まぁ、あなたのような若さには勝てませんけど…。
『俺は…板垣さんが好きだから近くにいるんだけど?』
『それ、どうせ冗談ですよね』
『いや本気だよ』
『うそだ〜』
そうよ、どうせ嘘よ。
『俺、純粋に板垣さんのこと、綺麗って思うんだよね。
外見だけじゃなくて心の中も』
『どうしてそう思うんですか〜?』
『うーん…確かにもしかしたら、俺の勘違いだったりするかもしれないし、本当はもっと違う人かもしれないけどさ…、
その分、好きな人のまた違う部分が見れて、知れて、嬉しくない?』
『本気ですか?相手オバサンですよ?』
『うーん…俺はそうとは思わないよ。ていうかそんなの、個人的な考えでしょ?』
足音が近づいてくる。もしかして来る!?
いや、もうなんともなくそっけなく…。
「あれ、板垣さん…」
びっくりしている武津くんの顔。
「あー、うーん」
何でこんな反応ばっか!バレバレじゃん、聞いてたってバレバレじゃん!
「ほら一緒に戻るよ!」
私は前を向いてスタスタと歩きだす。
私の後ろを彼は追いついてくる。そして私の隣に追いついた。
「ねぇ板垣さん」
「なに」
「今度俺とお見合いしてください」
ふと、私は足を止める。
彼は真剣そうな顔だった。
はぁと息をつき、私は彼に向かって言った。
「考えなくも、ない」
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