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お見合い
子供の頃は、なんて夢見がちな少女だっただろうか。
お金持ちのかっこいい男と結婚して、子どもが生まれ、
その頃の私は子どもながらに、順風満帆な生活を思い描いていた。
けれど、今年三十路を迎えた私は思う。
そんなに結婚は甘くない、と。
「板垣優子サン、ですね」
「はい」
只今、お見合い中。
向かいに座る男性は確か…。
「はじめまして、竜生祐生と申します」
爽やかな笑顔、スーツの似合う男性。
この人と一緒になれば…幸せになれる、ハズ。
どこを見てもキラキラしたシャンデリアが目に入るレストラン。
周りはスーツをビシッと着た男性や、大胆なドレスを着た女性がたくさんいた。私も負けないぐらいのキレイな刺繍の入ったドレスを着ているつもりだが、やはり本物には勝てない。くるくるに巻いた髪も、いつもより濃い化粧も、本物にとっては『ダサい』のかも。
意味がわからない英語の洋楽がレストラン中に流れ、私の頭は少しこんがらがっている。
いや、こんがらがってちゃダメだ。今日こそ彼氏を作って、脱独身&脱三十路女!
「ではまず自己紹介から始めましょうか。
僕は出版社で働いています。『Butterfly』っていう主に女性の地位向上を狙った雑誌の編集部で働いています」
男性は内ポケットから名刺を取り出し、『どうぞ』と両手で私に手渡した。
私も両手で受け取り、じっと見つめる。
「竜生祐生…こう書くんですね」
「はい」
男性はニコっと笑った。
私も名刺を取り出し、竜生さんに手渡した。
「私はデザイン会社で働いています。たとえば、お菓子の袋のデザインだったり、服のデザインだったり。私の会社は幅広い品のデザインを担当してるんです」
さらっと、そして簡単に。
「そうなんですか。本の表紙のデザインとかも?」
「まぁ…あまり携わったりはしませんが、担当するときもあります」
「へぇ…すごいですね。もしかしたら僕達、どこかで関わってたりして」
ハハッと竜生さんは笑い、私からも笑みが溢れる。
「あの…一つ聞いていいですか?」
私はそっと手を上げ、竜生さんを見た。
「はい」
嫌味なんて感じない、ただ純粋な方だ。
「竜生さんの…短所、教えてもらっていいですか?」
普通は長所っていうところだけど、私は毎回短所を聞く。
「短所ですか?…うーんそうだなぁ…」
竜生さんは天井を見上げ悩んでいる。
うーんという低い声が、途切れそうで途切れる事なく続く。
「あ」
不意に力ない声が低い声を途切れさした。
「強いて言うならタバコがやめられないことですかね」
ハハッと竜生さんは笑った。
カチッ。
何かが、鳴った。
その瞬間私は席を立ち、財布からお金を取り出し机にバンっと置いた。
「申し訳ございませんが、今回は縁がなかったということで」
私は上から男性を見下ろす。男性はポカーンとして口を開けている。
「あの…どうし…」
「どうしましたじゃないです。タバコは体に害です大害です!
タバコを吸うと癌になるリスクがあるのはご存知ですよね!?
しかもタバコは今高いです!たとえ高収入でタバコを買う金なんざ持ってるなんて言ったっとしても、そんな男性となんか結婚もはたまたお付き合いもできません!たとえは私は、将来の夫が病気になったとしても、あなたのような自分から原因を作ったようなかたと生涯を終わらせるつもりはありませんので!
さようなら!」
優雅な時間に流れる洋楽を途切れさすように、ハイヒールをカタカタカタカタと音を立てながら私はレストランを出る。
「…はぁぁぁぁぁぁぁぁ〜…」
我に返った私はその場に崩れるようにしゃがみ込む。
「またやっちゃった〜…。三十路でお見合い失敗も30回…はぁ…」
なんでお見合いすると変なスイッチ入っちゃうかな…。
慣れないハイヒールで夜道を歩きながら、退化した態勢で私は自宅に帰った。
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