その1 絵を描く少女

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 次の段ボールを開けると、ノートがぎっしり詰まっていた。やっぱり捨てようと思ってノートを開いたが、中を見たらどうしても捨てられない。特に思い出があるわけではないのだが、捨てるまでの踏ん切りがつかない。  一K二十平米の狭い部屋にベッドとテレビと本棚と、それに冷蔵庫を置いただけでもう部屋には空いているスペースはないのに。  それでも、優斗と一日かけて整理をしたおかげで何とか荷物は片付いた。 「ふぅ、これで全部だよな」  そういうと、優斗はドサッと段ボールを積み上げた。 「うん、これで全部、本当に助かったぁ、ありがとう、優斗ぉ」 「どういたしまして。はい」  満面の笑顔で感謝を伝える私に対して表情一つ変えず、優斗は黙って手を差し出してきた。 「何?」 「何じゃなくて、約束だろ」  一応期待してみたが、やっぱりタダでというわけにはいかなかった。私は財布を開いて渋々一万円札を渡した。 「はい、ありがとう」  お礼を言う私に優斗は表情一つ変えず、受け取った手を差し出したままじっと私を見つめ続けた。  顔つきと雰囲気で何が言いたいのかはすぐにわかった。これ以上は正直、きついところだったが、仕方なく財布を開くことにした。 「はいはい」  私はもう一枚一万円札を出して渡す。 「しょうがねえなあ、これで許してやるよ」 「何その言い方。あんた家族でしょうがあ」 「店休んで、わざわざ来てるんだからもっと感謝しろよ」  どうしてもと私が頼み込んだ結果、優斗は働いている店を休んでまで来てもらった。それを言われると私も何も言えない。  仙台の実家は大学に入る時に出ており、私がいなくなった後は弟がほとんど実家にいて両親と過ごしてくれていた。大学は仙台にあったが、通学にも距離があったため寮に入ったのだ。バイトとサークルで忙しかった私は実家には盆と正月ぐらいにしか帰らなかった。優斗には実家の面倒を見てもらっているので文句は言えない。 「それにしても、本当にねえちゃん、教師やるんだ」 「うん」 「自分があれだけ、教師だけは絶対にやりたくないなんて言ってただろ」 「まあ、そうだけど、何かね」  そう、私は、最初は、教師をやりたくなかった。ブラック企業以上のブラックと言われている教師。大学では教員免許を周りの勧めで取った。最初は、何となく教師ってのもありかなあなんて思っていた。  しかし、その考えが、甘いことだと気づいたのは教育実習に行ったときの事だった。  あの三週間の教育実習はとてもじゃないが、二度とできないなんて思った。  それなのに、今、こうやって教師をやろうとしている自分がいる。確かに、どうしてなのか自分でも不思議なくらいだった。
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