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老人の男性だ。切羽詰った表情で私にそう訴えかけると、彼もおぼつく足で出口へと駆け出して行った。惨いことになる?一体何のことかは分からないが、とりあえず早く行った方がよさそうだ。時計を見ると、時刻は7時56分を指している。大方、遅刻者には罰が与えられる、というようなものだろう。それならばこんなギリギリの時間を設定するのも囚人たちが焦り散らしているのも頷ける。私も残りの食パンを口に詰め込んで、駆けていった囚人たちの後を必死に追いかけた。相変わらずでこぼこの地面を素足で走るのは、痛いが今はそんなことも言ってられない。
「あ、おじいちゃん!」
「!」
地獄の朝にはやはり太陽は出ていなかった。昨日と同じ、赤い血のような塊と、赤い雲が空に浮かんでいる。全速力で駆け出していると、先程私に声を掛けてくれたおじいちゃんが数メートル先で息を切らしながら走っているのを発見した。体力的に限界が近いのだろう、地面に汗か体に水分かわからない液体をポタポタと落としながら、必死に門へ向かっている。
「おじいちゃん、行こう!」
「、おい!?」
私はそんなおじいちゃんを見ていられなくておじいちゃんの手を引いて必死に走った。このおじいちゃんがいなければ私は訳が分からず未だに食堂でパンを頬張っていただろう。体感的に、きっともうすぐ4分経つ。まだ体力の残ってる私がこのおじいちゃんと一緒に間に合えば問題ないはずだ。
「っ、はぁ、はぁ…。つい、た」
囚人たちが息を切らして地面に横たわっている鬼の顔をした大きな門の前に到着する。私も全速力で走り続けた反動で、体中から汗が噴き出して多くの酸素を吸い込んだ。
「…8時だな」
5メートルほどある門の上に座っていたらしい百鬼が、そこから地面に飛び降りてきてそう言った。
よかった。間に合った。
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