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私は安堵の気持ちから顔に笑みが生まれて、一緒に走り抜けたおじいちゃんの方を見た。しかしおじいちゃんは、一向に顔を上げる様子はなかった。隙間から見えたおじいちゃんの表情はとても時間に間に合った者の顔じゃない。絶望だ。言葉で表すのなら、それは絶望を捉えた顔だ。
__何で?一体今から何が起こる?
「…罰を与えるものが決まった。」
いつの間にか私とおじいちゃんの目の前に来ていた百鬼は、昨日と同じ表情のない顔で淡々とそう言った。周りの囚人たちは、息を乱す音すら消して百鬼の言葉を待つ。
「…2975番、お前だ。」
百鬼は私ではなく、絶望し地面に伏せいているおじいちゃんの方を向いてそう言い放った。
_いや、どうして。確かに私もおじいちゃんも時間には間に合ったはず。それなのにどうしておじいちゃんが罰を受けなくてはならないんだ。
「…ちょっと待って。8時には間に合った、なのにどうしておじいちゃんが罰を受けなくちゃならないの!?」
私の言葉に、百鬼は光のない眼を私に向ける。何度見ても、ゾクッとするほど闇の深い眼に鳥肌が立った。ぐっと今吐き出した言葉を喉の奥に戻したくなるが、歯を噛みしめて食いしばる。
「…生意気な。」
「っぐ!」
百鬼に左頬を叩かれ、体が地面に飛ぶ。
「…俺がいつ、遅刻者に罰を与えると言った。」
「…………、え、」
「罰を与えるのは、その日最後尾で集合場所に到着した者だ。」
私の中で、何かが崩れる音がした。
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