地獄で光ったそれは

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地獄で光ったそれは

「っ…!」 こんなに体が軋むような痛みを感じるのは、いつぶりだろう。高校生の時に出たムエタイの大会でまるでゴリラのような女と対戦した時?いや、ついこの間、拳銃で頭を打ち抜かれた時?それとはまた違う感覚か。百鬼の腹部に命中したと思った私の拳は、目に見えない速さで動く百鬼の高速移動によって躱されたことに気が付いたのは、私の背中が岩山にぶつかり背骨が悲鳴を上げた時だ。 「…咄嗟に急所は外したか。案外やるようだな」 あの強さの打撃をみぞおちへ入れられたらその時点で立てなくなることくらい、動物的本能で感じ取ることができた。必死で脇腹へ攻撃を流したものの、体へ受けるダメージは大きい。 強い。こいつ、やはり人間離れしてる。正直ムエタイの技を駆使したところで私が倒せる相手じゃないのかもしれない。…いや、弱気になっちゃだめだ。どんな相手にも負けずに食らいついてきた。違うのはフィールドが地獄だということだけ。臆するな私。せめて大技の回し蹴りが当たれば変わってくるはずだ…! 百鬼の仕掛けてきた刀筋を何とか躱して、回し蹴りを決めるために百鬼の後方に回り込んで、地面に踏み込んで、体そのものを捻って脚を振り上げる。 「っ!」 …入った!手ごたえはあった。百鬼は後ろに飛びそうになる体を足の力で踏ん張っているように見える。顔をゆっくりと上げた百鬼は、口元からたらりと一筋の赤い血を流した。 「…ムエタイの力は、こんなものか」 「!」 「…残念。この程度では俺は倒せない」 目の前に百鬼の手のひらが覆い被さるように現れた。そのままその手は私の身体を吹き飛ばす。遠くからおじいちゃんの声が聞こえた気がした。 無残にも崩れ落ちた体。笑えるほど力が入らない。体のあちこちから百鬼とは比べものにならない血液が流れているのがわかった。
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