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百鬼は圧を放ちながら、暫く口を閉ざした。二人の強靭な圧に、ここにいる囚人や看守が寧ろ苦しそうにしている。そのど真ん中にいる私の事も少しは気遣ってほしい所だが、そんなことは言ってられない。
「……ちっ。操り人形が」
「…ふふ、それは了承の意と取るよ、百鬼」
線香の煙が消えていくように、二人の圧が収束していく。それにやっと息をしやすくする私達。百鬼は私をギロリと睨むと、視線を看守たちに移して命を下した。
「…………今日はもういい。いつも通り石膏の運搬だけやっておけ」
百鬼はそれだけ言うと、門の上へ飛びあがり、宙を掛けてどこかへ行ってしまった。看守たちは一瞬目を点にしていたが、すぐさま、はっ!百鬼様!とおなじみの挨拶をして囚人たちに宿舎へ戻るよう指示を出した。マグマ地獄もあっという間に姿を消して、灼熱の空気は湿気を取り戻した。囚人たちの中には、ぽつりと、助かった…のか、と驚きの声を口にする者もいた。毎日、あぁやって百鬼に虐げられてきたことがよく分かった。
「お、お前っ…!大丈夫かっ…!」
「おじいちゃん…、へへ、結果オーライだったね。体は痛むけど」
「の、呑気な事を…!わしは本当に百鬼様に首を斬られてしまうんじゃないかと心配で…!」
おじいちゃんは黄緑さんに抱えられたままの私の元へおぼつく足でやってきて、腰を抜かした。
「あ、おじいちゃん、大丈夫?」
「わ、わしのことより血まみれの自分の心配をせい!」
「(ふふ…やっぱり不思議な子だ。これほどの怪我を負った自分よりも無傷の老人の心配か…。地獄にあるまじき人格の持ち主。百鬼のペースが乱れるはずだ)」
黄緑さんの心中を知るはずもなく。私は自分を抱えてくれている黄緑さんに、心からのお礼を言った。
「ありがとう黄緑さん。まさか番人の黄緑さんに助けてもらえるなんて」
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