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__騙された。自分の眉間に銃口が当たって、初めて謀られたことを悟った。鳴り響く銃声音を耳で聞き取りながら、体から一気に力が抜けていったのだ。あの男____初めから私を陥れるために、仕組んでいたんだ。最後に目の奥に焼き付いたのは、男の憎たらしい笑みと、遠い過去、愛してくれていた両親の顔____。
「…ここ、どこ?」
「囚人番号4771番、やっと気が付いたか。早く立って歩け。」
頭に走る鈍い痛みに眉を顰めながら、視界を開いていくとそこには見慣れたビルなどの建物の代わりに、マグマを吹き出している茶色い山々、でこぼことした舗装されていない地面、禍々しい赤色の空という世界が広がっていた。
…おかしい。私は今しがた、両親の下手人である社長夫妻暗殺のために屋敷に乗り込んで…、あぁそうか、そこで銃で頭を打ち抜かれて死んだんだ。私を欺いた詐欺師に殺されたのか。
「そうすると、ここは…天国?」
「何をめでたいことを言ってる、どう見ても地獄だろう」
私の腕を引いて無理矢理立たせた男は、呆れた顔をして、人間界上がりはのぼせてる奴が多くて敵わねぇ、と言った。地獄?嘘だ、私は地獄に落ちたのか?もう一度辺りを見回しても、確かに花畑もなければ天使もいない。あるのは血色の空に、グレーの軍服を纏ったみすぼらしい男だ。
私の手には手錠が嵌められており、服は半身と下半身がかろうじて隠れる麻の布きれのみだ。前後は私と同じように手錠を付けられてとぼとぼと歩く中高年が多くいる。一瞬で脳が理解した、私は地獄に落ちて、今からここで虐げられるのだと。全身の血液が引いた感じがする。
「っちょ、ちょっと待って!私地獄に落ちる覚えはないんだけど!?ほら、どっちかというと殺された側だしっ…!」
私は必死に抗議した。男は面倒臭そうに耳をかっぽじり、胸元から手帳を取り出して舌打ちを落とした。
「…風篠さくら。25歳。O型。独身。彼氏なし。○×コーポレーション所属。両親の仇討で親会社社長屋敷に侵入し、夫妻を斬首し殺害。S級重罪人」
「ち、違うの!名前とか、その、彼氏なしとかはあってるんだけど…ってか言わせんな!私は殺してない!私殺してないんです!ある男に騙されてっ…寧ろ殺されたんです!」
嫌だ。地獄に落ちるなんて絶対に嫌だ。怖すぎる。必死にその男に詰め寄るも、男の腕でふり払われて、再び腕を掴まれてしまう。周りで歩いている囚人たちは、そんな私達に、見向きもせず、ただ地面を虚ろな目で見つめながら誘導されるがまま歩いている。
心が死んでしまっているんだ。あぁなりたくない、ここから逃れたい…。逃げるのは、きっと今しかない。
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