閻魔帳に誤りがあるので人間界に帰してください

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「ぐぁっ!?なっ…、何をするこの女!?お、おい!逃げるな…!」 私は全身の力を振り絞って男の急所にとび蹴りをかました。男が震えながら地面にうずくまっている間に、囚人の列に逆行してでこぼこ道を走り抜ける。靴を履いていない足裏は、石によって簡単に切れる。血が出るのなんて気にせずに私は右も左もわからずに駆け抜けた。もしかしたら逃れられるかもしれない、淡い期待を抱いて。 「何を手間取っている?」 __________この異様なオーラをもつ男が降り立つまでは。 「ひゃっ、百鬼、様っ…!」 男の怯えきった声が聞こえた。背中に、感じたことのない冷たい空気が当たってぞっとした。心の奥底から冷えてしまうような、死んでいるのにそれでも死をイメージさせられるような闇深い圧。全身から冷や汗が吹き出して、呼吸が困難になる。このままでは背中が潰れてしまいそうで、思わず後方を振り返った。 「…虫けら一匹」 そこにいたのは、頭の後ろで結んだ黒いハチマキをし、黒い着流しに身を包んだ男。でもすぐにいなくなった。振り向いた私の背後に回っていたなんて、全然気が付かなかった。潰れてしまいそうだった背中に、潰れてしまいそうな鈍い痛みが走る。 「…調子に乗ったな」 ドスッ… 男の拳が、地面に倒れていく私の腹部にめり込んだ。声もなく、ただただ口から血が噴き出す。苦しすぎて声なんて出そうにない。そのまま地面に蹲ると、男は私の髪を上から鷲掴みにして自分の目線と同じ高さまで顔を上げさせた。視界が霞む中、男の光のない冷たい目が映る。 「っぐっ…!」 「…ここは地獄。逃げられるなどと思わぬ方がいい。4771番、これからお前は俺の元で苦しくても死ねない裁きを受けるのだ」 百鬼と呼ばれる男は表情もなく、冷たくそう言い放った。
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