血の契約を交わしました

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しかし男の動きは、百鬼の一言により、私の目の前で静止する。百鬼が、何の風の吹き回しなのか止めさせたのだ。 「っはぁ、はぁ…どういう、つもり…!?」 「……4771番。何故そこまでして抗う。何故、苦しみに屈しない」 血に塗れた私を見下している百鬼は、静かにそう聞いた。 「…こんなの、苦しみでも何でもないわ…!両親が殺された日からの10年に比べれば…!」 私の言葉に嘘偽りはない。15の時に両親が殺されてからというものの、私にとってはそれこそ生き地獄だった。苦しくても苦しくても這い上がれない、血の池地獄なんかよりももっともっと深い沼。 「…その眼は、この地獄でしていい眼ではないな…」 興冷めだと言って私を池にはなったはずの百鬼は、今度は面白い、と言って私の手首の手錠を取り外した。あまりの変わりように眉間に皺を寄せると、再び右手が私の頬を力強く掴み、顔を百鬼の顔の前まで引き寄せられた。 「賭けだ。あと1ヶ月、俺がお前のその眼を殺すのが先か、お前がその生きた眼のまま俺の試練に打ち勝つか…。もしお前が勝ったならば、お前を人間界へ帰してやろう」 「っ!?」 人間界へ、帰す?そんなことができるのか?いや、この冷徹無慈悲な番人の事だ、これも私を転がして遊んでいるだけかもしれない。半信半疑な眼で百鬼を見続ければ、百鬼はより顔を近付けて、ただし、と付け加えた。 「俺が勝ったら…閻魔となった俺の下僕として屈服し働き続けてもらう。輪廻転生の権利は与えない」 閻魔になるとか、下僕とか、輪廻転生とか。わけのわからないことばかりだ。でももし、もしも…もう一度人間界へ戻れるのなら。私を騙したあの男と両親を殺した本当の犯人に復讐できるのなら。 「…やる」 どんな藁にだって縋りついてやる。 「…決まりだ。すぐにその眼を殺し、屈服させてやろう」 つまらない勝負にならないようせいぜいその持前のみっともない意地で虚勢を張るがいい、と言い残して、百鬼は私を地面に落とし、その場を部下に任せて後にした。
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