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第二話 東京は冬眠するんですか?
焼き肉屋さんでお腹がはちきれそうになるまで、しこたま良い肉を食べた。いくらかかったか知らないけれど、絶海さんは怒らなかったし、むしろ機嫌がよかった。私は逆に、絶海さんとヒロさんがケラケラ楽しそうで、かつ母から折り返しの電話もなかったから、『大人なんてきらいだ』と少し拗ねた。
その後、ヒロさんが私たちを絶海さんの家まで送ってくれた。ヒロさんも家に上がるのかと思ったけれど、彼は「じゃあ、若。また明日」と帰っていった。
だから今は、絶海さんの家の前で絶海さんと二人きりだ。
冷静に考えてみると今日からこの人と二人暮らしというのは怖い気がする。まだどんな人かもわからないし、なんとなくだけどお母さんとも仲悪そうだし、それになんてったって体が大きくて、怖い。
『もし殴られたら交番に駆け込めば良いのかしら……』
そんなことを考えながら絶海さんの家を見上げる。
絶海さんの家はピカピカしている、まだ新しい、六階建てのビルだった。
「人形町ってもっと古い街なのかと思ってた。新しいビルなのね」
「通りが広いところは大方建て直されているよ。マア、木造は火事があれば燃えるからね。……江戸の華と言えば?」
「火事と喧嘩ね。……なるほど、じゃあ古い家は燃えたってこと?」
「木造の方が火事の時は好都合だよ。今の日本の法律では半焼じゃ保険が全額下りないからね……鉄骨で全額おろすには爆弾でも仕込まないと……」
そんなことを話しながら絶海さんは一歩その家に入ると、振り返り「おかえり、朱莉」と笑った。私は気恥ずかしくて「はぁ、……ただいま、絶海さん」と目を逸らした。
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