第二話 東京は冬眠するんですか?

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 シャワーを浴びてからキッチンに戻るとカツ丼をかっ込んでいる絶海さんとそれをにこにこと笑顔で見ているヒロさんがいた。絶海さんは目が覚めたらしく、「掃除をしなきゃいけない」「朱莉の勉強道具を」「買い物に行かないと」などと食べながらポツポツと話し、ヒロさんはそれに「じゃあ業者呼びますか」「車出しますよ?」「二日連続で外出するなんて久しぶりですね」などと返している。  私がコソコソとキッチンに入り「お風呂頂きました……」と言うと、二人とも笑顔でこちらを見てくれた。 「おかえり、朱莉ちゃん。ほら座って。朱莉ちゃんの分もあるから」 「ン、おはよう、朱莉」  絶海さんはカツ丼を食べ終わると「おかわり」と言ってヒロさんに差し出した。ヒロさんは笑顔で「よく食いますねえ」とそれを受け取る。  私は空いている席に腰を掛けた。 「今、ヒロと話をしていたんだが、きみが勉強できる環境を整えようと思う」 「ありがとう。あ、でも私、そんなにお金ないから……安いところで買いそろえたいな……」 「ウン? きみは金の事は一切考えなくていい。私が出すからな」 「えっ」 「きみは私の管理下にある。だから金は全て私が出す」  絶海さんはヒロさんが持ってきたカツ丼を頬張り始めた。私は目の前に置かれたカツ丼を見てから、絶海さんを見た。絶海さんはさも当然と言わんばかりの顔で私を見ている。 「いや、私、……生活力赤ちゃんの人に管理されたくない」 「ウグッ……」 「アッハッハッハッ辛辣(しんらつ)! 最高っすね、朱莉ちゃん!」  絶海さんは盛大に()せ、ヒロさんはけらけらと笑う。そんな二人に「二万はあるし、バイトも探すわ」と言うと、ヒロさんは「そう言わずに若の話を聞いてください」と笑い、絶海さんはヒロさんが差し出したお茶を飲んだ後「とにかく……」とかすれた声で話し始めた。 「私は戸籍上きみの父親だ。その責任だけはちゃんと取らせてくれ」 「そんなの……絶海さんはいきなり巻き込まれただけじゃない。それに起きていない人にそんなこと言われても信用が置けないというか……」 「今は起きている。……いいか。この先きみの財布から金を出すことはない。きみがなにをしようが私が責任を取る。きみがここにいる間だけはそれは私の権利だ」  彼は真剣な顔をしていた。それが怖かった。 「権利? ……迷惑でしょう。そこまでしてもらう理由もないわ」 「きみにはなくとも私には理由がある」 「なあに?」  彼は目を細め「きみが可愛いから」と笑った。 「……は? キモ……」 「……きも?」 「アッハッハッハッハッ若がキモイって言われてる、ヒッヒッヒッヒッ……」  気持ち悪い絶海さんから目を逸らし「いただきます」とカツ丼を食べることにした。彼が「気持ち悪い意味じゃないぞ」「私は姪が可愛いだけで」「食べていていいからこっちを見なさい」「朱莉!」と言ってきたが、全部スルーして、カツ丼を食べ続けた。
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