15人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「……あの……母さんに電話してもいい?」
「もちろん。無事会えたことを伝えるといい」
電話をかけようとすると絶海さんが「心配しているだろうからビデオ通話にするといい」と口を出してきたので、ビデオ通話に切り替える。絶海さんの言う通り心配してくれていたらしい母は、ワンコールで出てくれた。
『朱莉、無事に着いた? おじさんとは会えた? あら? 顔色悪くない? 新幹線で酔っちゃった?』
「どういうことなの、母さん。ちゃんと説明して」
母はまばたきをしてから『そうね、……先に言っておかなかったから驚いたわよね』と呟いてから、ジっと私を見た。私も母をジっと見返した。
『実は絶海さんはビックリするぐらいイケメンなのよ』
そうだった。母はこういう人だった。
「そこじゃないわ、母さん! うちって裏でヤクザって言われてるの!?」
母さんは『気がついてなかったの?』と聞き返してきたので「はぁん!?」と叫ぶ。しかし母は呆れたような顔をしていた。
『普通気が付くわよ。明らかに堅気の家じゃなかったでしょ』
「知らないわよ、そんなの! じゃあ私が同級生に避けられていたのは桜川のせい!?」
『そうよ? そりゃ仕方ないわよ。チンピラの巣窟って言われてんだから』
「え!? だって、中学で友達できなくて『私、ださいからいじめられてんのかな』って相談したよね!? 母さん、それで私と一緒に新潟まで出て、服買ってくれたじゃない!?」
『そうね。それから朱莉どんどんお洒落になって……東京でモデルになりたいなんて言い出すとは思わなかったけど、……でもお母さん決めたわ。朱莉を応援する』
「違うよ! なにを言ってんの!? なんで私が上京決めたと思ってたの、あなた!?」
『お洒落に目覚めてモデルになりたくなったんでしょ?』
「全然違うよ! 勉強したかったからよ!」
『そうだったの? あらー……うふふ……』
「笑い事じゃないわ、なにを笑っているの! あとそれから婚姻届ってどういうこと!?」
母さんに食ってかかっていると、ふと背後に誰かが座り、私の肩に顎をのせてきた。そのお香みたいないい匂いで振り返らなくて絶海さんと分かる。
美丈夫元組長の顎が肩に乗っている事実に、私はハシビロコウのように硬直した。
「お久しぶりですね」
耳元で、よく響くバリトンボイス。
『変わらずイケメンね、絶海さん』
画面の中で母がにこりと微笑む。
「お褒めいただき光栄です。ところで本当に……これでよろしいのですね?」
『保護者いなきゃ通えないんだから仕方ないでしょ……それに、あなたなら万に一つも朱莉を傷つけないだろうし……』
「……マア、そりゃそうですね……」
絶海さんの左腕が後ろから私の腰を抱き、その右手が私の手からスマホを奪った。
「たしかに私の娘として引き受けました。あなたも希望するならいつでも妻として来てください。……来れるものならな」
『……娘をよろしくね、絶海さん』
「ちょっと待ってよ、母さんっ!」
しかし無情にも電話は切られてしまった。ただ目の前の肉が焼けていく音が響く。
「……朱莉」
「ひゃいっ! えっ……なに……」
なぜか絶海さんは私を抱き上げて、胡坐を組む彼の膝の上に横向きに私を座らせた。その顔を見上げると彼はにこりと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!