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沢田くんと進まない話
そうこうしているうちにも気がつけば小野田くんと陸くんが往来の真ん中で激しい睨み合いを効かせ始めている。
「おいおいおいおいおいおいおいおい、誰が金髪クソゴリラだコラア! 沢田のいとこだかなんだか知らねえが、お前なんかのサプライズじゃ沢田は喜ばねえんだよ!」
「じゃあお前には空を喜ばせることができるっていうのか? 十年以上も同級生してたのにそのことに気づいてももらえなかったような薄味な関係のお前に、空の何が分かるんだよ!」
「うっせえわ! 沢田には気づいてもらえなかったかもしれないけどな、俺の心の中では親友気取りだったんだよ!」
悲しいよ、小野田くん! 親友気取りって。
「そっちこそ、夏休みの時のお前のサプライズのせいで沢田がどんだけ迷惑したと思ってんだ? 佐藤さんを巻き込んで、海に飛び込ませて、臨死体験までさせたらしいな! 『沢田くんはおしゃべり2』で読んだぞ!」
本人からは聞いてないんだ? 読んで知るって、読者と同じ距離感じゃん、小野田くん!
「うっせえな、おかげで空は佐藤さんと人工呼吸できたんだから結果オーライだろうが!」
「じ……【人工呼吸⁉︎((((;゚Д゚)))))))】」
陸くん、それ暴露しないで!! お父さんびっくりしてる!!
【この夏に空はいったいどんな体験をしたっていうんだ……。こうなったらお父さんも『沢田くんはおしゃべり2』を読むしかない。リンクはこれか……
https://estar.jp/novels/25856208】
えっ、お父さんまで読者に⁉︎
脳内なのにリンクを貼るなんて、宣伝がエグいよ!
「二人とも、喧嘩はやめて! 話が全然進んでない!」
私は思い切って、小野田くんと陸くんの間に突入した。
「沢田くんとのクリスマスパーティーは私が仕切るから、二人は引っ込んでいて! あ、でも矢野さんは貸して。あの人便利だから」
「お前にやれんのか? 偽乳」
陸くんが私を細い目で見る。私の胸にパットが入っていると疑うような目だ。
でも私だってここで引き下がるつもりはない。
一歩もひかずに陸くんを睨み返して言った。
「沢田くんのことなら、きっと私が誰よりも一番分かってる」
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