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「そうですな、一応あなたを私の商人仲間の息子で、見習い商人として預かっているという体で連れていますから、師匠とでも呼んでもらいましょうかな」
しかし、その呼び方に眉をひそめたたひとりの男が、ファルシールの横でイグナティオを睨んだ。
薄い金髪をファルシールと同様に後ろで結び、冬の空のように透きとおる碧緑の目、鼻筋の通った端麗な顔、それとは裏腹に服の上からでもわかる鍛えられた体躯良い背の高い偉丈夫、騎士ケイヴァーンである。
「おお怖い怖い。冗談ではありませんか」
イグナティオは騎士の睨みにを小笑いにかわして、皇子に目を向けた。
「シャイード、良い。好きにさせてやれ」
「しかし殿……アルメス殿」
「良い。今の私は、世間知らずの見習い商人だ。間違ってはおらぬ」
ファルシールはイグナティオの牽制に答えた。イグナティオはこうして皇子もといアルメスが騎士をしっかりと抑えられるか、騎士が一団を守るただの用心棒シャイードとして振る舞えるかを確認した。それはこの一団のメギイトへの旅が成功するかに深く関わるからである。
「ヨイチ、写本の作成は順調ですかな?」
「まあまあっすね……。こっちの言葉にうまく訳せるかは、少し自信ないけど」
馬に乗りながら数学の教科書を眺めて百面相をしている黒髪の少年は、イグナティオの問いに頭を掻いて誤魔化した。
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