序章 28人殺しの少年

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序章 28人殺しの少年

 桜花も散華し葉桜となる頃、一人の少年が少年鑑別所へと送致された。その少年の送致は日本国民が注目するものであった。12歳の少年が28人もの大量殺人事件を起こしたとされる容疑者だからである。少年は逮捕後、警察署で留置され、拘置所にいる間もずっとマスコミに張り付かれカメラのフラッシュを浴び続けていた。 少年鑑別所への送致が終わり、少年が連れてこられたのは春の朝の光差し込む小部屋だった。そこには身長計と体重計、それと脱衣かごが一つ置かれていた。 群青色の制服を纏った法務教官が、少年の身長と体重の測定を行った。 少年の身長と体重は145.3センチに45.2キロ。小学6年生の平均と言ったところである。 長机に座った法務教官が記録用紙に少年の身長と体重を記載する。それから、少年を長机の前に立たせた。 法務教官は少年に氏名と生年月日を尋ねた。 「名前と生年月日の方を」 少年はまだ声変わりも終わらぬ高い声を震わせながら氏名と生年月日を述べた。 「た、多岡…… ま、ま、真彦…… へ、へいせい……」 すると、法務教官は一旦真彦を止めさせた。 「ごめんね、西暦でお願い出来るかな? 二千何年って呼ぶ方」 「あ、はい。ごめんなさい。20XX年4月2日…… です」 法務教官は名前と生年月日を照らし合わせ、目の前にいる少年が正真正銘の多岡真彦であることを確認し、コクリと頷いた。 法務教官は真彦に冷徹な口調で無慈悲に述べた。 「はい、服を脱いで。横にあるカゴに全部入れて」 「え……?」 人間、いきなり服を脱げと言われれば戸惑うもの。真彦も当然戸惑い、首を横に振った。 法務教官は更に続けた。 「全部脱いで、全裸ね。手は横、気をつけね」 真彦の全身が震え上がった。服を脱ぐための手が動かない。身体測定を担当した法務教官が優しく真彦の肩を叩いた。 「身体検査だから。鑑別所の中にものを持ち込むことは出来ないんだよ」 真彦は震える手で衣類を脱ぎ始めた。Tシャツ、上に羽織るYシャツ、ベルト、チノパン、靴下…… これらを脱衣かごに入れ、スポーツメーカー産のボクサーブリーフ一枚となった。そこで真彦の手が止まった。 相手が同性の男であっても、法務教官の前で裸になるのは恥ずかしい。 羞恥心が裸になるのを止めろと訴え、手を止めてしまったのだ。
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