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翌日、いつもより足早で会社へと向かう。
仕事をする気分ではないが、早く時間が経って欲しくて、早く切原と話がしたくて、自然と足取りが速くなっていた。
会社に着くと田崎部長が既に席に座っていた。
「部長、おはようございます。先日はすみませんでした。」
『いやぁ、こちらこそ、お恥ずかしい。』
部長はそう言って頭を掻いた。
『中村くんも記憶がないと言っていたが、大丈夫だったのかい?』
「いや、…はい、何とか。」
一瞬、部長にも一部始終を話して相談しようかと考えたが、“嘘つき屋”が頭に浮かび、それを阻止した。
案の定、仕事に身が入らなかったが、それでもやらなければならない事は山のようにあり、あっという間に時間が経っていた。
昼休みにはコンビニ弁当を食べる俺を見て、同僚が声を掛けてきた。
『あれ、珍しい。喧嘩でもしたか!』
「いや、ちょっとね。」
『まだ新婚なんだから奥さん大切にしろよ~まぁ、お前に限っては大丈夫か!』
同僚は笑いながら俺の肩をポンポンと叩いた。
俺は周りからからかわれる程、妻にぞっこんだったのだ。今まで喧嘩をしたことなんて無かったので、誰もこんな状況になっているとは思わないだろう。
時計の針が18時を指したと同時に机の上を片付けて席を立つ。
「部長、すみません、用事があるのでお先に失礼します。」
挨拶をして足早に会社を後にした。
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