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『先ず、簡単に自己紹介しますね。
普通に考えて、たぶん怪しいと思うので。』
切原はそう言って表情を柔らかくした。
『本職は便利屋をやっています。
嘘つき屋っていうのは、その方が具体的にこんな依頼も受けますよっていうのが分かりやすいかと思って名乗ってます。』
「はぁ、便利屋さん…」
『まぁ、元々は常連客が“嘘つき屋”って呼んできたのが始まりなんですよね。
…ダサいんで本当は変えたいんですけど。』
切原は少し顔をしかめて笑った。
『法に触れるような事はしないし、あなたを騙すような事もしませんので、ご安心下さい。』
そう断言してくれることで、少なからずあった不安が消えていった。
とはいえ、完全に信用出来るとは言い切れないことも分かっていた。
例えば、詐欺師が『自分は詐欺師だ』なんて言わない。嘘をついてでも信用させて騙すのだ。
“嘘つき屋”と言うくらいだから、嘘つきのプロなのだろう。今、俺に話していることが嘘かもしれない。
『では、本題に入りますね。』
「あ、はい!宜しくお願いします。」
パッと引き締まった雰囲気に変わり、つられてこちらも背筋を伸ばす。
『中村さん、いくつか質問させて頂きます。
先ず、奥様から見せられた写真の女性、つまり浮気相手となった女性はどんな方でしたか?』
「えっと、名前とかは分かりませんが、あの日居酒屋で部長と飲んでいた時に声を掛けてきた女性に似てました。」
『どんな見た目ですか。』
「小柄で、肩くらいの長さの茶髪でした。」
『写真に顔は映っていましたか?』
「いえ…
俺も彼女も、顔は映っていませんでした。」
『分かりました。では、何とかなりそうですね。』
えっ、と驚いて切原の顔を見つめた。
切原は俺の視線に応えるようにニコッと笑ってみせた。
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