溢れる想い出

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しばらくソファーに座っていたが、 一先ず何か食べようと台所へと向かった。 冷蔵庫を開けるが、簡単に食べられるものはもう殆ど残っていなかった。 「何か買ってくればよかったな…」 そう呟きながら、何か無いかと漁っていたらふと野菜に目が留まった。 そういえば… 俺は殆ど料理をしたことがないが、まだ妻と付き合いたての頃、一度だけ一緒にカレーを作ったことがあった。 毎日のように外食かコンビニ弁当を食べていた俺を心配して、『カレーだったら簡単だし、一度にたくさん作れるから!』と言って恵子が教えてくれたのだ。 「…カレー、作るか。」 記憶をもとに、人参、じゃがいも、玉ねぎを取り出して慣れない包丁を握った。 作っている最中は、隣に恵子がいるのではないかと錯覚する程、教えてもらった時のことが鮮明に思い出された。 『ちょっと!危ないから、切るときはちゃんと左手で押えて!』 『猫の手って言って、こうやって丸めて押えるの。こうしたら手が危なくないでしょ?』 『じゃがいもは水に浸けてアク抜きをして…』 『うちは牛すじカレーが定番だったんだけど、安かったから今日は豚肉ね。』 「あ、そっか、肉入れなきゃ。」 恵子の言葉を思い出し、時々独り言を言いながら作り進める。 最初は、ちゃんと作れるかなと不安があったが、自分でも思っていた以上に上手に作れていると思う。 恵子のお陰だな…。と心の中で感謝した。
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