失われた記憶

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「お待たせ致しました。」 目の前にコーヒーが差し出される。 ホテルを出てから、一先ず近くの喫茶店に入っていた。 「ごゆっくりお過ごし下さい。」 そう言って店員が丁寧にお辞儀をした。 コーヒーを一口飲み、ほっと息をつく。 少し落ち着いてきたらお腹が空いてきた。 何か食べ物も頼もうかとメニューを手にした時、はっと気付いて鞄から携帯を取り出した。 見ると、妻からの電話とメールが何件も届いていた。 恐る恐るメールを開いてみる。 『まだ飲んでるの?何時頃になりそう?』 『大丈夫?迎え行こうか?』 『おーい!連絡して!!』 『もう寝るから』 最後のメールは夜中の2時に送られていた。 やってしまった…。 昨日のことはまだ思い出せないが、妻に連絡もせず朝帰りとなると問題だ。 何て言えばいいのだろう。 部長に捕まって飲みに行くことはよくあるが、遅くても23時には帰るようにしていた。 きっと心配させただろう。 いや、怒らせただろうか…。 時計を見ると、7時を指していた。 今日は幸いにも土曜日だから仕事はない。 家に帰らなければ。 妻に連絡しなければ。 そう思うのに、どんな顔をして会えばいいのか分からず、動けずにいた。
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