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「切原さんっ!」
『中村さん、聞いてましたよ。
記憶がないって言った時のこと、少し詳しく聞かせて下さい。』
「あ、はい、すみません…。
妻にそのままを話そうと思って、“部長と飲んでる途中から記憶がなくて”と話しました。
そこまで言った所で妻が『記憶がない?』って聞き返してきて…
その後は説明しようとしても聞いてもらえず、写真を見せられたんです。」
『なるほど。
では、少し誤魔化しみたいになりますが…』
俺の話を聞くなり、そう言って切原は話し始めた。
『中村さん、“記憶がなくて”は中村さんのことではなく部長のことを言っていた、ということにしましょう。
部長と飲んでいる途中から“部長が”記憶をなくして、部長を自宅まで送りに行っていた。その帰りに、彼女に出会った、というのはどうでしょう?』
「なるほど!
説明の最初で話を聞いてもらえなくなったということにすれば筋が通る!」
『ただ、酔った人のことを“記憶をなくした”と言うのは少しおかしい表現ではあるので、何か例を挙げて説明した方がいいかも知れないですね。』
「例…ですか?」
『そうですね、例えば、
“あれ?中村くん何でここにいるの?”って言われたとか、記憶をなくしたという表現が合うような話にするという意味です。』
「なるほど。」
『もし疑われるようであれば、部長にも証言してもらったらいいですよ。』
「それはちょっと…」
と苦笑いをした。
確かに部長は『記憶をなくして送ってもらった』と話してくれるだろう。
でも、部長に妻とのことを説明しなければならない。それはそれでややこしくなりそうだ。
『とりあえず、説明してみて下さい。』
「わかりました!ありがとう!」
切原との電話が切れた後、ふと切原が“聞いていた”とはどういう事だろう?切原はどうやって妻との会話を聞いていたのだろう?と疑問に思った。
電話中は、それどころではなく疑問にも思わなかったのだ。
一瞬、考えていて動きが止まったが、今はそんなことより妻に説明しなければと思い、急いでリビングへと戻った。
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