112人が本棚に入れています
本棚に追加
「話の途中にごめん。」
リビングに戻ると、妻が男性と女性をソファーに座らせて紅茶を出していた。
妻は2人にお辞儀をすると、俺の方へと歩いてきた。
『彼女たちが話してくれた事はわかったわ。だから、ここからは2人で話しましょう。』
妻の真っ直ぐな視線に気圧されそうになるのをぐっと堪えて口を開く。
「えっと…“記憶がなくて”って言ったことについて、だったよな?」
『ええ、そうよ。
今までの話が本当なら、記憶がないって言うのはおかしいでしょう?
どうしてそんな言い訳したの?』
「言い訳じゃなくて…
説明しようとしたんだ。
部長と飲んでいる途中で、部長が大分酔っ払って…俺と飲んでいた事も忘れて、家にいると思い込んでて。部長の記憶がなくて危ないと思ったから部長の家まで送って行ってたんだ。
その帰りに、宮野さんたちに出会って…」
言いながら、心臓が飛び出る程の鼓動を感じていた。妻にも聞こえてしまうのではないかと、余計に緊張が高まる。
「そのことを説明しようとしてたんだ。」
『部長さんの記憶がないって言おうとしてたってこと…?』
「ああ。」
『……』
妻は納得していない表情で黙り込んだ。
暫くそのまま黙っていたが、返す言葉が見当たらないといった様子で『そんな言い訳…』と呟き、俺に背を向けて部屋の中をうろうろと歩き出した。
目的があって歩いている訳ではなく、考え事をしながら歩き回っている、という感じだった。
暫く部屋中を歩いていたが、台所の途中で妻の動きがピタッと止まった。
そして少しの間何かを見つめた後、向きを変えて俺の方へと歩いてきた。
『わかったわ。
あなたは浮気していなかった。だから今回は許してあげる。』
最初のコメントを投稿しよう!