壊れた幸せ

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ガチャッ 今にも心臓が飛び出しそうな程の緊張を押し隠して玄関のドアを開けた。 いつもと変わらない景色なのに、どこか寂しいような、冷たいような感じがした。 靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。 今にも妻がいつものように「お帰りなさい!」と笑顔で走ってきてくれないだろうか、 そんな淡い期待をしながら静かな廊下を1人歩いていく。 リビングのドアをそっと開ける。 ノブを持つ手は震えているのがわかった。 リビングに入ると、ソファーに座る妻の後ろ姿が見えた。 「ただいま…」 遠慮がちに声をかける。 妻はこちらを見ることなく、「おかえり」と低めの声で応えた。 「昨日、連絡出来なくてごめん。」 「……。」 「実は、昨日部長と飲んでる途中から記憶がなくて…」 そこまで話すと、妻がこちらを振り向いた。 「記憶がない!?」 「うん、実は…」 ちゃんと話せば解ってくれる、そう思った時だった。 「馬鹿にしないでよ!! そんな言い訳に騙されるとでも思った!?」 今まで聞いたことのない程の彼女の大きな声に驚き、何が起こったのか理解できずに唯々彼女の顔を見つめていた。 「知ってるんだから! 女と楽しく過ごしてたんでしょ!? 連絡もしないで…。心配した私の気持ち、ちょっとは考えてよ!」 「いや、あの…」 「それを“記憶がない”で済ませようとするなんて!最っ低!!」 「いや、違うんだ… 本当に記憶がなくて、」 「これでも記憶がないって言い訳できるの!?」 そう言って彼女は俺の目の前にスマホを差し出した。 そこには1枚の写真が表示されていた。 ラブホテルの前で抱き合う男女の写真。 顔さえ見えないがよく見ると俺の着ていた上着に似ている。 しかもホテルは、今朝俺が飛び出して来たホテルそのものだった。 「そんな人だと思わなかった…」 彼女は少し涙ぐみながら、怒りのこもった声でそう言ってリビングを出ていった。 その後、彼女は俺を避けるようにして、会話をすることも許されなかった。
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