1710人が本棚に入れています
本棚に追加
真島さんと青山君が控え室にやってきて副社長さんと打ち合わせをはじめ、その様子をチラチラと朋花さんが見ている。
やっぱり二人には何かあるような気がする。
真紀さんの関係で繋がりがあるんだろうけど。
「果菜」
貴くんに呼ばれて顔を上げる。
「何とかなるし、気にするな」
私の頭をポンポンとすると優しい笑顔を向けてくれる。
でも、と言おうとしたわたしの口に貴くんの人差し指が止める。
「映画祭って祭りだろ。西さんも俺たちも大成功で出番は終わったしもう一つくらいお祭り騒ぎしてもいいんじゃないか。ほら、皆楽しそうな顔をしてる。だから気にしないで果菜も楽しめ」
それでいいのかなと困った顔をする私の頬に貴くんの手がかかり、一瞬軽いキスが落ちてきた。
「お前がそんな顔をしていたら皆が楽しめないぞ」
じわりと涙が浮かびそうになって慌てて堪えた。
「少し遅くなるけど、ホテルで待ってろ。仕事が終わったら行くから」
もう一度、触れるだけの軽いキスが落ちてきて
「果菜。笑顔、笑顔」と頬をひと撫でして貴くんは立ち上がる。
入り口にLARGOのスタッフが来ていてタカトの迎えに来たんだとわかった。
貴くんは仕事の時間なのだ。
「わかった。ホテルで待ってる」
これ以上心配かけないようにしなくっちゃ。
頷いて何とか引きつる表情筋を持ち上げて笑顔を作ると貴くんも頷いてくれる。
貴くんは副社長と真島さんに声を掛け軽く頭を下げると控え室を出て行った。
次に彼に会えるのはここを出たあとだ。
副社長さんの指示で朋花さんと私は着替えることになった。
着ていたワンピースを脱いでスタッフに渡す。
それを西さんの事務所の女子スタッフに着てもらい私たちに似せたヘアスタイルをさせて、いかにもと言った感じの事務所スタッフにガードさせアフターパーティーの会場内の目立たないところにいてもらう予定なのだとか。
アフターパーティーの参加者の中にはメディアもいるし、スポンサー企業の人間もいる。
多くの人の中には目立つような内容をSNSで呟くようなことをする人もいるのだろう。
『月の姫がいる』とか『お天気お姉さんがいる』とか。
私たちはそれを利用しながら会場にいるのが別人だと気付かれる前にこっそりと会場を出ることになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!