1711人が本棚に入れています
本棚に追加
「果菜ちゃん、お疲れ様。今回の旅の最後の仕上げをしましょうか」
真紀さん、今は素の笑顔でにやついている。
「さーて、一緒にLARGOの楽屋に突撃しよう!あ、でも果菜ちゃんがこっちに来てるのはタカトにバレてるからもうドッキリじゃなくなっちゃったね。タカトの驚く顔が見たかったのにホントに残念だわー。あ、いっそのことタカトに会わせないで果菜ちゃんこのまま連れて帰っちゃうって方が驚くかしらぁ」
真紀さんの提案に背筋が寒くなる。
そう、そのドッキリは失敗だった。私のせいで。
真島さんが私たちの前に現れた時点で貴くんにバレたことを悟った。
でも、そのまま彼に私を会わせず連れて帰るって・・・真紀さんったらそれはいくら何でもどうかな。一応新婚なんですが。
うふふふと笑う真紀さんに代わって西さんと朋花さんが私に「ごめんね」って顔をする。
この女王さまには誰も逆らえないらしい。
国王陛下的存在の西さんでさえ。
この場にいる女王以外のほぼ全員が顔を引き攣らせ苦笑した時だった。
「ふざけんなよ。俺の奥サン勝手に連れまわすなってーの」
声と同時に私の背中から身体が大きくて温かいものに包まれた。
この声と香りはーー大好きな私の旦那さま。貴くんだ。
控え室に入ってくるやいなや私をバックハグして頬にキスをすると、
「やあ、奥サン、だいぶ活躍したそうで?」
と怪しい笑顔を見せた。
あ、ヤバい。
これ、結構怒ってるよね。
「さて、コレ引き取っていい?安全のためにもいいよね」
有無を言わせぬ貴くんの黒い笑顔に真紀さんは笑っているけど、周りのスタッフはタカトのオーラに凍り付いた。
「いや、まだダメだよ」
貴くんに返事をしたのは真紀さんじゃなくて西さんだった。
えっと声にならない息を飲むと、西さんは貴くんに向かって笑いかけた。
「今からアフターパーティーだからね」
貴くんが笑顔を引っ込め私を抱く手に力が入るのがわかる。
西さん、お願いです。火に油を注ぐのはやめてー。
「ごめんごめん、からかうつもりじゃなかったんだ。そんな怖い顔しないでちょっと話を聞いてくれよ。うちの奥さんの尻拭いをするつもりなんだからさ」
西さんがにこにこと貴くんに話しかける。
「それって」
「そう。うちの義妹と君の奥さん、何だか追いかけられてるんでしょ。ちょっとまずいよね。会場の出口にファンが集まってるらしいよ。その一部は姫目当てだと思う。無事に東京に戻さないとだよね」
全員の視線が私と朋花さんに集まった。
西さんから提案されたのは帰京する予定を早めて今夜の深夜便で北海道を発つことだった。
「果菜ちゃんの正体がバレた以上このままここにとどまらない方がいいと思うんだ。それでなくてもうちの義妹と二人、”東京からの美人旅行客のお天気お姉さん”って話題になってるみたいだし」
映画祭のレッドカーペットを見るために、かなり目立たないところに居たつもりだったのにちょっとした騒ぎになってしまって、それを見た人たちがさらにSNSで発信してしまったらしい。
そこから昨日の”お天気お姉さん”が映画祭にいて、しかもそのうちの一人はLARGOのタカトの恋人の”月の姫”だとバレてしまったのだ。
貴くんもそれは当然、怒るよね。
朋花さんと私は小さくなった。
そもそも、札幌駅前で声をかけられたとき逃げればよかったんだ。
本当にごめんなさい。
最初のコメントを投稿しよう!