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ホテルの部屋で貴くんの帰りを待つこと2時間。
スイートは1人で過ごすには淋しすぎる。
今日はいろいろあったから尚のこと一人でいたくない。
シャワーを浴びてメイクの鎧を流し去り、事務所のスタッフさんが運んでくれた自分の荷物からルームウエアに着替えてぼんやりしていると、空港に行った朋花さんからメールがきた。
『空港のVIPルームってシャワー室とかもあるんだよ。もうびっくり』って写真付き。
空港にそんなところがあることも知らない庶民の私は驚いてしまう。
世の中には知らない世界がたくさんあるんだと思い知らされる。
西さんの事務所は芸能界でも最大手の一つで、副社長のひと声であっという間にいろいろなヒトやモノの手配がなされていった。
恐るべし芸能界パワー。
「こんなにワクワクするのは久しぶりだー」と言いながら副社長さんは脱出作戦の指揮を執り、つられたように他のスッタフの皆さんも楽しそうに動いてくれたし、楽しめと言われたけれど、どうにも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
本当に多くの人に迷惑をかけてしまった。
泣きそうになった頃、やっと貴くんが大きな荷物を抱えて帰ってきた。
「待たせたな。腹減っただろ、果菜の好きな茹でカニ調達してきたぞ。今夜は外食には出られないからこれで勘弁な」
いつもの顔して、まるで自宅に帰ってきたみたいな顔で普通に帰ってきた。
勘弁だなんてとんでもない。
こんな時にも私の大好物を忘れないでいてくれるとは何て素敵な旦那さまなんだろう。
でもカニより先に貴くんのぬくもりが欲しい。
飛びついて「ごめんね」と顔を貴くんの胸にこすりつけた。
「迷惑かけてごめんなさい。こんなことになると思ってなかった。芸能人の妻になるって自覚足りなかった。ごめんなさい」
言いながらどんどん涙が溢れてくる。
貴くんはそんな私の腰を抱きもう片方の手で頭を撫で始めた。
「大丈夫だ。何があったのかは大体わかってるし、何があっても大概のことは対処できる。芸能人の妻の役割なんていらない。果菜はただ毎日俺の隣で笑っていればいい」
優しい声で宥められると余計に泣けてくる。
よしよしとでもいうように背中をトントンとされるけど、涙が止まらない。
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