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果菜の肩を抱き寄せてイヤリングの付いた耳に軽くキスを落とす。
「いいな、似合うよ」
それは月と翼から落ちた羽をイメージして作ったもらったオリジナルのイヤリング。
キラキラと揺れているのは小粒のイエローダイヤモンド。
「月明かりの翼」や果菜の歌う「Fly me to the moon」のせいで果菜はファンの間で「月の姫」と呼ばれている。
そのイメージにぴったりだ。
このイヤリングをつけている女に何かあれば俺が潰す。相手が男でも女でも。
「タカトってホントに策士だよねー。清美社長もノリノリで女の子たち追い払ってたわよ。作戦大成功って感じ」
ヒロトの嫁が満面の笑みを見せた。
「策士?作戦?」
果菜が何かに気がついたのか訝しげな顔になる。
「そうか、よかったよ」
「タカトだけは敵に回したくないって感じ。果菜ちゃんは何も知らないんでしょ?」
「当たり前だ。果菜はお人よしだから。俺が誰かをはめるなんて知ったら必死で止めにかかるだろう」
「私もイイ仕事したでしょ?これで少しは二人に借りが返せたかな」
「ああ。十分だよ。あのことはもう気にするなよ」
「ね、ねえ。何が一体どうなってるの?何か仕組んだの?どういうこと?」
1人だけ話が見えなかった果菜が俺の腕を引っ張った。
「果菜ちゃん、さっきタカトのことなんて呼んだっけ?」
ヒロトの嫁さんが果菜をつつく。
「そういえば慌ててたからひと前で『貴』って呼んじゃった」
真っ赤になって焦る果菜
「あれ、わざと呼ばせたのよ、この策士ったら」
ヒロトの嫁さんは呆れたように俺を見るからニヤリと笑って返した。
「え?そうなの?」
そうなんだよ。果菜、ごめん。
最近何度も俺の実家に連れて行っていたのも実はこのため。
俺は実家で「貴(たか)」と呼ばれている。それというのも俺が生まれた後に結婚した父の妹の旦那さんが「タカヒトさん」というからだ。
タカトとタカヒト
叔父さんはタカヒト。
俺はタカと呼ばれ区別されていた。
そんな環境のところで過ごしていたら自然と果菜も俺のことを『貴くん』と呼び始め、さっきにように慌てると『貴』と呼んだりするわけだ。
「清美社長も女の子たちに「あんたたち、調子に乗って果菜ちゃんみたいに『貴』なんて呼んだらアイツにこの世界から抹消されかねないわよ。あの呼び方はタカトの家族だけに許された呼び方なんだから」ってすごみを利かせて言ってたし」
「それに、今日の秋野さんのドレスの件もタカトと清美社長が仕組んだんでしょ?」
返事をしないでフッと笑うと、
「やっぱりね。おおこわっ」
とヒロトの嫁さんはわざとらしく身震いする仕草をした。
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