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「ドレス?」
またも果菜は首をかしげた。
「果菜ちゃん、今日の出席者の女の子たちはパステル調や花柄のファッションの子が多いと思わなかった?」
ヒロトの嫁さんが会場に視線を向けると果菜もぐるりと見回す。
「流行りかなって思っていたんだけど」
「もちろん流行りでもあるんだけど、ちょっと仕掛けもあったのよね」
清美社長が戻ってきてニヤリと笑った。
「主役の秋野の衣装にかぶらないようにする配慮、逆にそれを利用したの。事前に秋野は原色のワンピースか大柄の着物を着用しますってお触れを出して。
ホントに西さんや秋野とお付き合いのある方々にはヌードカラーの花柄ワンピースを着用しますって連絡したわよ。
本当のことを知らされていないただのパーティー好きや仕事よりオトコ探しを目的にしてるような子たちは驚いたでしょうね、主役の大女優と自分の衣装がモロ被り。だから会場内で堂々と歩き回ることが出来なくて諦めて帰ったり、隅で目立たないように固まってたってわけ」
果菜は瞬きを忘れたように固まっている。
社長が言った内容を理解しようと必死に考えているのだろう。
「それ以外のタカトをはじめとするラルゴのメンバーに群がる身のほど知らずの勘違い女たちの排除も必要だったし、ちょうど良かったわ」
「本当にあの人たち、腹が立つったら。隙あらば近づいてきて旦那には色仕掛け、私には嫌み攻撃」
ヒロトの嫁さんが眉間にシワを寄せる。
「今夜のタカトのスピーチでさすがにマズいと思ったんじゃないかしらね。今日だけで二重三重に罠が仕掛けられてて、タカトや果菜ちゃんに何か仕掛けたら次はホントに潰されるって気がついてくれたと思うけど。大物協力者の存在に気がついたら恐ろしくてこれからなにも出来ないはずなんだけどどうかしらね」
俺のトラップを丸ごと社長に暴露されてしまい苦笑しながら果菜を見ると、「大物…」と不安そうな複雑な顔をしている。
「呆れたか?」
果菜を支える手に力が入る。
果菜は表情を緩めた。
「呆れませんけど。こんなことして大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。うちのメンバー、社長も秋野も共犯だし、実は西さんも西さんの事務所も秋野を慕う後輩女優たちもみんな協力者だ」
ええっ?と果菜の瞳が大きく開いた。
おいおいそんなに大きく開いたらこぼれちゃうぞ、ただでさえ果菜の瞳は大きいのに。
「そんなに。私皆さんにお詫びに行かないと。あ、お詫び?お礼?どっちだろ。ねえ、貴くん」
おろおろとしはじめた果菜をヒロトの嫁さんが笑う。
「ホントに月の姫は純粋ね。私もだけど、あの子たちのことは迷惑に思ってた人たちも多いから、みんなスーッとしたんじゃないかな。そうじゃなかったらみんな協力してないよ」
もう一度会場内を見回すと、幾人かの人たちと視線が合う。
若手女優や大手事務所の関係者たち。
明らかな笑顔を浮かべている者がほとんどだ。
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