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果菜は事務所の用意したスタッフが運転する車の中でぶつぶつと文句を言いながらもてきぱきと社長とヒロトの嫁さんにメッセージを送っている。
車内の薄暗い光の中で揺れてキラキラとする果菜の耳元を飾るイヤリング。
じっと見つめているとスマホをしまった果菜と目が合った。
「どうしたの?なあに、ちょっとご機嫌?」
俺の満足気な顔を見て果菜も微笑む。
「そうだな、きれいな姫を持ち帰ることができて満足してる」
もっともだと大きく頷くと、「ちょ、ちょっと」と焦り始めるうちの姫。
本当に手に入れることができて良かった。
「今日は女たちの中に置き去りにして悪かったな。あいつらを一網打尽にしたかったとはいえ、果菜を辛い目に遭わせた。すまなかった。これからは嫌がらせされるようなことがあったらすぐに言うんだぞ」
「全部私のため・・・だったんだよね」
果菜の問いにゆっくり目を閉じて返事をする。
「ありがと」同時に俺の肩にそっと果菜の頭がもたれてくる。
「私は幸せな女だね。こんなにすごい人に大切にされて、特別だって言ってもらえるんだから」
いいや、幸せなのは俺の方。
この世の中で妥協せず「好きだ」「この人だけを大切にしたい」と心から思える相手と結ばれることはどのくらいの確率なんだろう。
果菜の手をキュッと握りしめ、早く自宅に着かないかと焦れ焦れとした。
抱きしめるだけじゃ足りない。
どう表現したら俺の愛が伝わるのだろう。
笑顔だけじゃなく
困った顔も怒った顔ですら
俺の生きる原動力となっていることを
ーーー果菜は知らない
~episode1 王様のため息~
完
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