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「あ、先生。目が覚めたみたいですよ」
高すぎず低すぎない微妙なラインの透き通るような女性の声が耳に入った。
ぼんやりと目を開けた俺の視界には見たことがない薄いグリーンのカーテンと白い天井。それと大きな瞳の白衣の女性。
ここはどこだ。
「大丈夫ですか?痛いところ、辛いところはないですか?」
大きな瞳の女性が心配そうに問いかけてくる。
ぐっすりと眠ったせいか頭が少し軽くなっている。
「頭痛が少し。ーーーえーっと、ここはどこですか?」
「ここに来たこと、覚えてないですか?」
女性は困ったように首を傾げ、口角をキュッと引き締めた。
ゆっくりと頷くと
「この先のドラッグストアの前で座り込んで眠っているあなたをたまたま先生に頼まれてお使いに出た私が見つけて。勤務先であるこの内科クリニックに運び込んだんですが。その時私は肩を貸しただけで、あなたはご自分で歩いてましたけど、それも覚えてないんですね?」
そう言えば夢の中で女性と話をして、それから女性の肩を借りながら歩いたような気がする。あれは夢ではなかったのか。
カーテンの向こう側から白衣の男性が現れた。
「お、目覚めたんだね。点滴が効いて少しは楽になったんじゃないかい?」
40才くらいだろうか。どちらかというとふくよかで優しそうな風貌の男性だ。大きな瞳の女性が「先生」と呼んでいたからこの人が先生で彼女はナースなんだろうか。
「すみません。ちょっと寝ぼけていたみたいでご迷惑をおかけしました。身体はかなり楽になりました。」
ゆっくりと身体を起こすが、まだ少しクラっとする。
「あっ!あんまり無理しないで。どなたかご家族の方とかお呼びしましょうか?」
慌てて俺の身体を支えてくれた彼女が思ったより力強くて、今まで女性に感じたことのない安心感を覚える。
「いいえ、すみません。大丈夫です。自分で帰れます」
彼女は俺の身体から手を離したものの心配そうに目を細める。
「本当に大丈夫です。頭痛はよくあるんですが、今回は仕事の関係で睡眠不足も重なってしまってたせいで酷くなってしまったようで。ご迷惑をおかけしました。あの、会計は?」
「今日はもう事務員がいないから会計ができないんだ。明日以降に保険証を持ってきてもらえれば保険負担で会計するからね」
男性医師がそう言うと、彼女が診察申込用紙と記載された紙を俺に手渡した。
「住所と年齢、お名前だけ記入してください。読み書きはお辛いでしょうから問診は私が口頭でお聞きしますね」
軽く微笑まれてドキッとする。
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