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今日のパーティーの招待客は基本的に西隼人と秋野真紀の仕事関係のお偉いさんと知人。
つまり、業界人だけ。
CMや映画、ドラマのスポンサー企業のお偉いさんも来ているから、こういったパーティーは多くの芸能事務所にとって自社タレントの仕事をとるための営業をする格好の場となっている。
そういう意味合いもあって、西と秋野とは全く親しくもなく面識もないようなやつらも一部参加していることになる。
それにプラスして厄介な奴らも。
スポンサー企業のお偉いさんが同伴してきた若い女たち。
ユウキの誕生日パーティーに来ていて果菜を傷つけたオンナたちもそんな奴らだ。
会場に着いてからはしっかりと俺の腕に果菜の腕を絡ませて離れないようにと言い聞かせる。
反対側には社長が付いてしっかりガードしている。
「どうしよう。テレビで見たことある人だらけでクラクラします。皆さんお綺麗でどこに視線をもっていったらいいのかわかんないし」
ひきつった笑顔を浮かべている果菜。
俺と社長は顔を見合わせて苦笑する。
「果菜ちゃんは貴斗だけ見てなさいな」
「それも恥ずかしいからムリですっ」
なんだその即答は。
「俺たち一緒に住んでるよな?」
「住んでますけど。『LARGOのタカト』は見慣れないの」
「ああ~、そっか」社長がポンっと手を打った。
「果菜ちゃんが見てるのは素の貴斗だからね。うんうん、貴斗は愛されてるわね」
果菜が真っ赤になって俯いてしまった。
ナースの仕事はバリバリこなすくせにそれ以外は緩い。そんなところも俺にはツボなんだけど。
温かい目で果菜を見ていると彼女がガバッと顔を上げた。
「そうだ。私、今日は自信をもって『LARGOのタカト』の隣に立っていようって決めたんでした。俯いてちゃダメなんですよね」
いきなり宣言するから笑ってしまった。
社長は肩を震わせて笑いをこらえている。
「そうか、果菜にしてはすごい決意だな。頑張れよ。でも、果菜に自信があろうとなかろうと俺はお前のものだし、果菜も俺のものなんだけどな」
果菜の赤い頬に軽くキスするとさらに頬が赤くなり「もうっ」と軽く腕を叩かれた。
周囲にざわりとした空気が流れる。
社長の呆れたような冷たい視線は軽く無視をした。
「進藤くん」
聞き覚えのある声に振り返ると、今日の主役、西隼人と秋野真紀がすぐ近くに来ていた。
白のタキシード姿の西隼人とフワッとしたヌードカラーの花柄ドレスを纏った秋野真紀。
地味な色合いなのに地味に見えないのはさすがに秋野だ。
さすが日本を代表する俳優と女優。
まんまスクリーンから飛び出してきたようじゃないか。
「西さん、秋野さん。おめでとうございます」
「ありがとう」
「来てくれてありがとう。LARGOは忙しいから来てもらえないかと思ったよ」
「まさか、西さんと秋野さんの大事な日に俺が来ないはずないですよ」
笑顔であいさつを交わすと、二人の視線が俺の隣に移っていくのが分かった。
「紹介します。俺の婚約者の果菜です」
彼女の腰を支えて紹介すると、
「水沢果菜と申します。この度はご婚約おめでとうございます」
果菜はきれいに頭を下げた。
もともとそういう仕草をとてもきれいにこなす子だと思っていたけど、近頃はさらに洗練されたと思う。
俺は何も聞いていないが、社長のところで特訓を受けたのかもしれない。
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