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「ああ、キミが進藤君の『月の姫』だね。お会いできて光栄です」
「初めまして。秋野真紀よ。タカトからあなたの話は聞いているわ」
二人から声をかけられた果菜は緊張MAXになっている。
「果菜ちゃんって隼人のファンなんですってね。ね、隼人、果菜ちゃんにハグでもしてあげたら?」
秋野の言葉に果菜が硬直する。
俺は内心ムッとしたが果菜が喜ぶなら我慢しようとポーカーフェイスを決めて口を挟まない。
俺の事務所の同期である秋野真紀に悪気はない・・・わけではない。
コイツ、自分の婚約者を使って絶対俺をからかってる。
秋野はそういう女だ。
「果菜ちゃん、俺のファンなの?」
世の中のオンナたちを虜にする笑顔でイケメン俳優の西隼人が果菜に笑いかける。
「は、はい。中1の頃に観たドラマに出演された西さんを見て素敵だなって思ってました」
もう果菜は熟れたリンゴのように真っ赤だ。
「中学生?果菜ちゃんっていくつだっけ。何のドラマ?」
「CHKの『屋根裏の晩餐』です」
「ええ?『屋根裏の晩餐』?それって12、3年前じゃない?しかも俺の役なんて主役の親友の同僚でほんのちょい役だったやつじゃないか」
西が目を丸くする。
「へぇー、そんなの誰も覚えてないと思ってたよ」
西だけでなく、秋野も俺も社長も驚いた。
西が売れる前から果菜は西隼人に注目してたのか。
それってかなりコアなファンっていうんじゃないか?
果菜からは熱烈なファンじゃないって聞いていたのに。
「いやあ、嬉しいな。売れる前の昔の自分に注目してくれていた人がいるなんて」
そう言うと、西隼人は果菜に近付いてハグしようと腕を伸ばした。
途端にずずっと果菜が後ずさる。
「あ、あの握手してください!」
伸ばされた西の手を両手で包み込んだ果菜が真っ赤な顔で握手している。
ハグをかわされた西だけでなく秋野も俺も驚いて果菜を見つめた。
「隼人~フラれたわね」
秋野真紀がクスクス笑いだした。
「あ、あの、違うんです。ハグしてもらったらその、私はかなり嬉しいんですけど。
でも西さんは秋野さんの大切な人だし、もし私が秋野さんだったらファンサービスってわかってても自分の好きな人が自分の目の前で他の女性とハグするのを見るのは嫌だなって思って・・・」
全身を赤く染めて必死に訴える果菜。
自分の身に置き換えて秋野に気を遣ったらしい。
そんな果菜がかわいくて自分に引き寄せようとしたら
「きゃー!可愛い!!何、この子なんなのもう!可愛すぎる!!」
秋野真紀が果菜に抱き付いていた。
「もうっ、そんなこと考えちゃって。ねえ、社長。この子タカトにはもったいないんじゃないの?」
ぎゅうぎゅうと果菜を抱きしめる秋野の姿を見て俺も社長も、そして西も苦笑するしかない。
そのうち「ぎゅえっ」と果菜からこの世のものとは思えない声が出た。
「おい、いい加減に果菜を離してくれ。果菜を殺す気か」
「あらごめんね」舌を出して秋野が果菜から離れる。
ぜいぜいと肩で息をする果菜を背中に隠した。
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