後編

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走りながら、さっきの、真っ直ぐに届いた視線を思い出した。 何にも邪魔されず、真っ直ぐ。真っ直ぐ。 ——そっか、背が、伸びたんだな…… 私の背は結局、あれから全然伸びなかった。膝はもう痛くはなくても、走るのに支障はなくても。 本当のところ、膝はしばらくの間相当痛かったけれど、部活を辞めなければならないほどの致命傷には至らなかった。高校に入る頃には成長期も終わっていて、膝はきっと完治していたんだと思う。 だけど私はあの時確かに、大切な何かを失くしてしまって。 情熱とか信頼とか尊敬とか希望とか。 あの頃欠かしてはならなかった何かは、気付けばあっさりとすり抜けて消えていた。 そしてまだひ弱だった私には、欠けてなお保てるだけの力もバランスも、まるで足りていなかったんだ。 私はずっと俯いたまま、バレーボールごと全てを、ずっと遠くへと押しやった。自分で、押しのけて、もう見なくてもすむように。 どう繕ったところで、ひどく好きなことに変わりはないのに。 ——子どもっぽい…… 自嘲気味に苦笑する。本当になんて子どもっぽい。 でもまぁ…仕方がないか。 確かに私は、本物の子どもだったのだから。 散らばった学生の間をすり抜けるように、狭い階段を駆け下りる。 まったく痛まない、懐かしく頼もしく力を伝える膝を好ましく思う。 ——なんだ、私、走れるじゃないか…… バレーをやめてからずっと長く伸ばしている髪が、背中の後ろで踊るように跳ね上がる。 そういえば、こんなに懸命にスピードを上げて走ったのなんて、随分と久しぶりで。 深沢君、背、随分高くなってたな。 それはまるで、5年分の成長の証のようで。     私には何か、5年分の何かがあるかしら?今だって、何でも器用にこなせるわけではないけれど。 5年分綺麗になったかしら?髪は随分伸びたのだけれど。 何でもいい、何か。深沢君の前で真っ直ぐ、胸を張れるぐらいの、5年分の成長の証が、私にも何かないだろうか? 走りながら、深沢君を探しながら、そんなことを真剣に考えていた。 熱量 Fin
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