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あれはいつ頃だっただろうか。
暇を持て余していたんだから、きっともう、部活を辞めていた三年の頃。
別に何事もなくて、ただひどく面倒だった。全てが。
帰るのも立ち上がることすらも、そもそも日々を過ごすこと自体ひどく億劫で、机に頬っぺたをくっつけてぼんやりとしていた。
あの頃は、理由も原因もないままにただただ不満だったことが、今よりもずっと多かった気がする。
学校は別に好きじゃないけど、放課後の教室は結構好きだった。
帰宅部は早々に学校を去り、運動部は元気に活動中。
人口密度のぐっと減った校舎は大抵静かで、薄赤く染まりかけた空が綺麗に見えた。
突然がらがらと静寂を破って、教室の後ろの引き戸が開いた。驚いて弾かれたように振り返ると、もっと驚いたような顔をした男子が戸口に立っていた。深沢君だった。
「何してんの。お前」
「別に、何も」
答えると、気を取り直したように教室に入ってくる。
「寝てた?」
「寝てないよ」
「部活は?」
「帰宅部だもん」
正直に言ったのに、深沢君は、一瞬気を取られたように歩調が緩んだ。
「意外だな」
「そう?」
「だって、お前、なんでも出来そうだから」
「なんでもって」
「なんでも。勉強も運動も人付き合いも先生とのやり取りも、何でも器用にこなしそうだからさ」
「そんなことないよ」
出来なかったから、こんなところにいるというのに。
そんな非難がましい目を深沢君が捉えたかどうかは分からないけれど、ま、どうでもいいけどね、という声は聞こえた。
まったくその通り。どうでもいい、そんなこと。
他人のことなんて特に。
彼の無造作に突き放したような言葉が心地よくて、ゆるゆるとその視線の先を追ったら、すっかり赤く染まった夕焼けが見えた。
やっぱり綺麗だった。
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