1 死にかけから始まる異世界生活

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1 死にかけから始まる異世界生活

 「アルト・テイル、お前を廃嫡する!」  「本気かアルバルト!アルトはまだ6歳だぞ‼」  さて…、この修羅場をどう切り抜けようかな。俺、アルト・テイルは静かに周りを見渡した。無表情な父と母、勝ち誇っている弟、激高している叔父、今にも泣きだしそうな妹に婚約者。混沌としている室内で俺は覚悟を決めていた。全てはこれからの俺の人生のために。 ________________________________________________________  今の状況を説明するためには僕が6歳の誕生日を迎える前日にまでさかのぼる必要がある。部屋で水差しの水を飲んだ瞬間、今まで感じたこともない熱さと痛み、苦しみが僕を襲った。  「う…うがぁぁぁぁぁぁ」  「おにいさま!おにいさまだいじょうぶですか?!」  「おい、今すぐ医者を呼べ!今ならまだ助かるぞ‼」  耐えきれない痛みに意識が遠のく中、僕が最後に見えていたのは泣きながら叫び続ける妹の顔だった。 ________________________________________________________  次に目を覚ました時に、僕は全てを思い出し理解した。僕は…いや、俺はどうやら転生したみたいだ。前世の名前は高岡潤、どこにでもいる本好きの高校生だった。最後の記憶は自分の部屋で本を読んでいるときに地震が起きて、目の前に本棚が迫って…なるほど、本棚に押しつぶされて亡くなったみたいだ。そして今の状況もしっかりと理解している。俺のこの世界での名前はアルト・テイル、ストラリ王国テイル家のの長男だ。どうやら俺は誰かに殺されそうになったみたいだな。  コンコン…  「おにいさま、しつれいします…」  「おう、入ってきていいぞ」  「おにいさま!おきたのですね‼」  喜びの声をあげながらベットに駆け寄ってくる金髪の美少女。彼女の名前はエリザ・テイル。この家で唯一の味方であり、俺の妹だ。  「おにいさま、おからだはだいじょうぶですか⁉」  「ああ、大丈夫だ。それより医者を呼んできてくれないか」  「わかりました。すぐにおいしゃさんをよんで…」  「その必要はないよ」  俺がドアに目を向けると一人の男が入ってきていた。俺と同じ茶髪はキラキラと波打っており、女性のような柔和な笑顔は見る人に安心感を与えてくれる。彼は叔父のヨハネス・テイラー、エリザと同じように俺の理解者だ。  「ヨハネス様、お見舞いに来てくださったのですね」  「ああ、そんな固い言葉遣いはやめてください。私たちは家族ではないですか。それに一週間後にはアルトの誕生日ですから、たまたま早く来ただけですよ。それで、体の調子はどうですか?」  「ええ、問題ないみたいです」   「それは良かった。なにぶん、解毒の魔術は学院以来でしたから。成功して良かったです」  「ヨハネスさんが治療してくれたんですか!ありがとうございます‼」  「いえいえ…、それよりも今回の件ですが…」  ヨハネスは言葉を濁す。俺を傷つけないように言葉を選んでくれているのだろう。だけど、俺も気づいている。今回の毒殺未遂で俺を殺そうとしたのが誰なのか。  「分かっているよ、ヨハネスさん。俺を殺そうとしたのはこの家の誰かでしょ。理由は俺が魔術を使えない欠陥魔術師だから」  俺は事実を話しながら考える。これからの人生を生き抜くための方法を…。  
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