ドラマ『もう少しだけ』

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 今日は久しぶりのデート。  一日の終わりに、理沙と大輝が公園のベンチでくつろいでいる。  夜空は澄み渡り、満月がぽっかりと浮かぶ。 「もう少しだけ」  大輝が月を眺めながら、おもむろに口を開いた。 「ええ。もう少しだけ、ね」  理沙はうっとりと大輝を見つめ、彼の肩に再び頭を乗せた。 (完璧。このロマンティックなシチュエーション。後はこの一時(ひととき)に身を(ゆだ)ねるだけ…) 「痩せたら?」 「はぁ?」 「あ、いや、その、適正体重を超えたって言ってただろ? もう少しだけ痩せたらもっとかわいくなるよ」  理沙は口をあんぐり開けたまま。 「ポテチ、もう少し控えなよ。僕も健康のためにも控えてるぞ」  理沙はムスッとした。 「ヨガもいいけど、もう少し運動すれば? 通勤帰りに一駅前で降りて歩くのが手軽でいいってさ」  理沙はふて腐れて、 「もう少しだけ、もう少しだけ、って…。そういう使い方じゃないの。大輝もドラマ『もう少しだけ』観てるでしょ?」 「へいへい、(おお)せのとおり観てやすとも。でも、別にそれを意識してたわけじゃない、偶然だよ」 「ほんと、デリカシーがないんだから。あ、終電の時間」 「理沙のためを思って言ったんだが、気に(さわ)ったならごめん。送るよ」  二人は改札に着くまで、終始無言。 「また連絡するから。機嫌直せよ」 「今度は違う使い方にしてよね」 「何のこと?」 「もう、何でもない」  理沙は改札を通ると、いつものように大輝に手を振ることはなく、人波にのまれてプラットフォームへと姿を消した。  
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加