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今日は久しぶりのデート。
一日の終わりに、理沙と大輝が公園のベンチでくつろいでいる。
夜空は澄み渡り、満月がぽっかりと浮かぶ。
「もう少しだけ」
大輝が月を眺めながら、おもむろに口を開いた。
「ええ。もう少しだけ、ね」
理沙はうっとりと大輝を見つめ、彼の肩に再び頭を乗せた。
(完璧。このロマンティックなシチュエーション。後はこの一時に身を委ねるだけ…)
「痩せたら?」
「はぁ?」
「あ、いや、その、適正体重を超えたって言ってただろ? もう少しだけ痩せたらもっとかわいくなるよ」
理沙は口をあんぐり開けたまま。
「ポテチ、もう少し控えなよ。僕も健康のためにも控えてるぞ」
理沙はムスッとした。
「ヨガもいいけど、もう少し運動すれば? 通勤帰りに一駅前で降りて歩くのが手軽でいいってさ」
理沙はふて腐れて、
「もう少しだけ、もう少しだけ、って…。そういう使い方じゃないの。大輝もドラマ『もう少しだけ』観てるでしょ?」
「へいへい、仰せのとおり観てやすとも。でも、別にそれを意識してたわけじゃない、偶然だよ」
「ほんと、デリカシーがないんだから。あ、終電の時間」
「理沙のためを思って言ったんだが、気に障ったならごめん。送るよ」
二人は改札に着くまで、終始無言。
「また連絡するから。機嫌直せよ」
「今度は違う使い方にしてよね」
「何のこと?」
「もう、何でもない」
理沙は改札を通ると、いつものように大輝に手を振ることはなく、人波にのまれてプラットフォームへと姿を消した。
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