1話 出逢い

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1話 出逢い

ねぇ、お願い。 止まって。 心臓止まって。 なんでこんなに焦るの。 なんでこんなにドキドキするの。 なんで素直に声が出てこないの。 なんで声の震えが止まらないの。 なんでこんなに顔が赤くなるの。 なんで なんで なんで なんで こんな思いをしてまでわたしは…… あなたに恋してしまったの。 「ああ~だる~い」 「おい、咲葵。どーしたんだよ」  花がしおれたように机の上に倒れていると、隣の席に座っている五十嵐蒼(いがらし あおい)が声をかけてきた。  わたしは南咲葵(みなみ さき)。蒼とは幼なじみで小中高と同じ学校。そして、高校二年生で同じクラスになったの。 「え~だって次英語だよ~」 「咲葵は昔っから英語嫌いだよな」 そう、わたしは英語が凄っごく苦手。だから、英語の授業は昔っから嫌い。とっても単純な理由だけど、そんな理由で十分だよ。そんなことはさて置き!おなかすいたな~  そんな事を考えていると、ぽろっと口から言葉が出てしまった。 「はぁ~お昼ご飯食べたい~」 「また、ご飯かよ。咲葵、お前太るぞ」 「太んないし!」  わたしが声を上げて軽く睨むと蒼は意地悪に笑う。 「そっかそっか、もう太ってたな」 ほらー!またそーいうことゆー! 「太ってないし、太らない体型だし!」  少し頭に来た蒼の言葉にむきになって思わず口調を強くしてしまう。すると蒼が席を立った。  突然のことに驚いたわたしは蒼の顔を見る。 おこらせちゃったかな?ちょっと口調が強くなっちゃったかな?  わたしの心配をよそに、蒼はわたしの正面まで行くと立ち止まりしゃがむ。きょとんとした顔でその一連の行動を見つめていると、わたしの顔と同じ高さになるように机の前でしゃがんだ蒼が笑顔で言った。 「ごめんごめん、太ってなんかないよ。可愛いよ」  蒼の腕がまっすぐ伸ばされわたしの頭を撫でる。 「……………」  真っ赤になった顔を隠すためにわたしはすぐに頭を下げる。 もぉ~っ、なんなの!  蒼くんはそんな咲葵の態度を愛おしそうに優しい瞳で見つめていた。 「あ、もうそろそろ授業始まるぞ。用意しろよ」  蒼は何事もなかったかのように立ち上がりわたしに声をかけながら席に着いた。 「もう、わかってる!」  わたしは照れを隠すために強ばねで返したが思ったよりも声が響き、クラスが一瞬静まり返ったような気がする。 はっ、やば。もー蒼の馬鹿―。  わたしは両手で口を塞ぎ、蒼は席に着いたあと顔を伏せ細かく肩を揺らした。 「ふ~終わったぁ~」  嫌いな英語の授業の終わりと待ちわびていた昼食の時間に全身の力がふぅーっと抜ける。  そんなわたしの大袈裟にも見える態度に蒼くんはいつも通り返してくる。 「お疲れ」  その声を聴いてもう一度体に力を入れるわたしは、勢い良く立ち上がり蒼の方を見て言った。 「じゃ、行ってくる」  食堂に向かって走り出したわたしの背中に蒼が声をかけてくる。 「太るぞー」 「太んないし!」  わたしは振り返りながら蒼に向かって叫んでから、すぐにまた前を向き急いで走り出す。  そんな咲葵を蒼くんは、見えなくなるまで見送った。  そして、蒼くんの視界から咲葵が消えた時、蒼くんの顔からは笑顔が消えていた。何かを思い詰めるような、そんな顔になっていた。 「はぁ~着いた~」  食堂に着いたわたしは、息を切らしながらも声を出す。わたしの周りにはもう結構な人が行ききしていた。  校舎はロの字をしていて二年生の教室は南側にあり食堂は北側にある。一年生と三年生の教室は西と東で二年生の教室が一番食堂から離れてる。しかも、食堂は一階で、たしの教室は三階。だから、廊下を走ってきたわたしより早く来てる人が結構いるの。 はぁ~人いるし…まぁしょうがないか。まだ人少ない方だし。  わたしは頭を切り替えて購買に向かった。 ん~焼きそばパン残ってるかなぁ~?  そんな事を考えながら見てみると、まだ全然焼きそばパンは残っていた。 やったぁー、残ってる!早く来て良かったぁー。 「おばさん、焼きそばパン二つ下さい」  そう言って前にいるおばさんに二個のサインを手でピースして送る。  それと同時に後ろから一気に人が集まり出し押し合いが始まった。みんなが思い思いの商品の名前を叫んでいく。  購買のおばさんは慌てながらも、わたしの頼んだ焼きそばパンを二個をビニール袋に入れて渡してくれた。わたしはポケットに入っている小銭を出してピッタシの料金をおばさんに渡してから、この人だかりを抜け出すために振り返る。 うわっ…それにしても凄い人だかり…  わたしがおばさんからビニール袋を受け取るとこの人混みのなかから離脱しようと悪戦苦闘していると……。 「あ……」  その一言と同時に頭がくらくらし視界が回るようにぼやけはじめる。そして、だんだん周りの音が聞こえなくなり、自分の体ががゆっくり地面へ倒れて行くのをわたしは感じていた。 体から力が抜けていく…………… 「大丈夫?」  そんなわたしに突然声をかけてきたのは学校でも人気の高い二年生のあの長谷川樹(はせがわ いつき)くん。 はぁ~、かっこいいな~  そう見惚れしているわたしは、今置かれている現状に気づくのに数秒かかった。 そう、そうなの、そうなのです!わたしは今、樹くんの腕の中にいるのです!  倒れていくわたしを樹くんが抱き抱えてくれていた。嬉しさ少しと残り全部焦りのわたしは、アワアワしていた。  そんなわたしの顔を樹くんは心配そうに覗き込んでくる。わたしは顔を真っ赤にして石化した……でも、心臓の激しく波打つ音で直ぐに我に返ったわたしは、樹くんの腕から急いで離れる。  わたしは慌てながら投げかけられていた質問に答える。。 「だだ、だい…大丈夫です」 やばいよ、全然大丈夫じゃないよ~。  噛み噛みの返事が恥ずかしくなり顔がさらに赤くなる。 あぁ~恥ずかしい~  樹くんはわたしを見て目をパチくりさせると声を出して笑った。 「だ、大丈夫?南さん面白い」 全然大丈夫じゃないよ~、今の忘れて~。  そう思いながらも変な人とは思われないように必死に冷静さを装いながら答える。 「う、うん。大丈夫。」 恥ずかしいよ~、早く逃げたい!  そんな私情を知るはずもない樹くんは、わたしにイケボの声をかけてくる。 「あの…」 「あ、わたし用事あるから。あ。じゃあ。ここれで。」  恥ずかしさと緊張のあまりわたしは詰まり詰まりの早口で樹くんの言葉を遮り食堂をあとにした。 「咲葵、どーしたんだよ」  さっきの英語の授業前と同じように、花がしおれたように机に倒れていると蒼は少し気がかるように聞いてきた。 「うーん…べつに~」 なんと言えばいいのか分からない…….でも、なんか疲れたんだよー。泣きたい、いろんな意味で。 「そーいえば飯は」 「食べた」 「はやっ」  驚いている蒼だが、わたしはさっきのことが頭から離れず心ここにあらず状態。 「嬉しいよーな、悲しいよーな。はぁ~、なんか疲れたぁ~」 あ、声に出ちゃった。  今までわたしの席の前に立っていた蒼が自分の席へ移動し腰を下ろす。そして、黙ってこちらをむいてくる。  その蒼の態度を知っているわたしは話始めた。 「今日、購買の所で樹くんに助けてられたんだよねー」  少し驚いた顔をした蒼は少し険しい顔をして樹くんの名前をおもむろに繰り返す。 どーしたんだろー、蒼。  不思議に思って蒼を見つめているとわたしの名前を呼ぶ。 「咲葵?」  そう蒼に言われ我に返ったわたしは続きを話した。 「うん、なんか購買であったの。焼きそばパン二つ買って」 「二つ?」  驚いて聞き返してくる蒼に心ここにあらずの状態ながら答える。 「うん、食べた」 「たべたぁ!」 「え?」  蒼の反応で我に返ったわたし、お同じように驚いてしまう。 え?なに、二つって多いの?  購買の焼きそばパンは普通の焼きそばパンより大きく、運動部の男子達ぐらいでなきゃ二つは食べない。  蒼はあからさまにわたし目をしっかりと見つめて唾を飲み込む。わたしもその緊張感に呑まれ同じように唾をのんだ。そして、蒼の唇がゆっくりと動く。 「で」 「デブじゃないから、ならないから」 蒼が何を言おうとしたのか、なんてすぐに分かる!デブって言おうとしたよね、絶対。  蒼は少し笑ったあと、もとの顔に戻して聞いてくる。 「うん、分かった。で?」 「じゃないか…ら……あ、うん」 もぉーわかりにくいなぁー。デブって言おうとしたのかと思っちゃったじゃん。 「それで、買ったあとね。なんか急にふらってしてー…意識が飛んで行くのかな?なんかそんな感じな出来事あって、倒れる時に助けてくれたの」 「………」  何にも言葉を返してこない蒼に少し不安になりわたしは思わず聞いてしまう。 「どーしたの」  さっきよりも確かに暗くなった表情で蒼は聞いてくる。 「いまは、くらくらしたり吐き気とかはないよな」 「え、なに!?やだなぁ~、大袈裟だよ。全然大丈夫」 蒼、ちゃんとわたしを心配してくれるんだ。 やっぱり優しいな、蒼は昔から。  蒼の言葉から少し嬉しさを感じ、安心できる。 「た」 「食べ過ぎとかじゃないから、それが原因なんかじゃないから」 「おお」 安心できない!  わたしに感心してか笑う蒼。 良かった、笑った顔が見れて…………ん?良かった?まぁ、嫌じゃないけど……。 「はぁ~」  家に帰ったわたしはベッドに横たわった。 なんか最近ため息ばかり吐いている気がする……。それに、目まいと立ちくらみも多いしなぁ…。 「はぁ~」 あ、またついちゃった。  急いでわたしは口を抑えた。でも、すでに手遅れ。遅れて伸ばした手を離し、じっと天井を見つめた。 今日も立ち眩みみたいなのあった……そういえば、樹くんに抱かれちゃった。はあ……………!カッコいいよ~。しかも、わたしに笑いかけてくれたよ。今日一番いい事だ。樹くん好きー。 「ごはんよー」  母の声で思考を中止したわたしは体を起こすと大きな声で返事をする。 「はぁーい」 ご飯だぁー。  その時ふと樹に言われた事を思いだす。 「あ……樹くんにお礼してなかったなぁ」  それと同時にもう一つも思い出した。 「蒼の奴~、太ってないし」  口に出しながらドアを開けるわたしは続けて独り言を漏らす。 「心配してくれなくても、だ…い……」  ドアを開けるのと同時に襲ってくる立ち眩み。昼間と同じ様に意識が飛んでいく。 あ、まただ。でも、今回は今までより、ひど……い…………。 バタン  わたしはそのまま倒れた。  壁に強く打った頭からは少しずつ血が滲み出ていた。
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