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11話 寂しい甘さ
「咲葵」
扉を開けると同時に、香織ちゃんがわたしの名前を呼びながら飛び込んできた。
「ど、どうしたの?香織ちゃん」
普段の冷静沈着さはなく息を上げながら近づいてくる香織ちゃんの姿にわたしは戸惑う。
「それはこっちのセリフ」
そう言ってからわたしの肩に両手を置きながら呼吸を整える。
少しして呼吸を整え終わったと同時に、いつも通りの真顔に戻る香織ちゃんは。わたしの両肩から手を離し、数歩後ろに下がってから淡々と聞いてきた。
「どうしてこうなったの」
「いつもの立ち眩みで……」
「普段と違ったところは?」
「いつもと同じ感じ……」
「今は?」
「元気です」
「退院は?」
「明日です」
「樹くんのことは?」
「今も好き、諦めないよ」
香織ちゃんの瞳を見てはっきりとそう答えた。
「まあ、まだ出合って一ヵ月だし」
「うう……」
「体調もメンタルも、最悪じゃなくて良かった」
香織ちゃんにわたしのぴえん顔は全く効果がなかったみたい。
ぴえん。
「ずいぶんと速かったな」
「蒼いたの」
香織ちゃんが少し驚いたように見えなくもない反応をしながら、蒼へ向き直り答える。
香織ちゃんも蒼って呼んでる……。
「え、俺ってそんな空気?」
「連絡してくれてありがとう」
「無視……。いいよ別に、それより合宿帰りにそのまま来たのか?」
「ええ」
香織ちゃんは今も下ろすことなくことなく、大きな斜めがけリュックかついでいる。蒼は席を立つと香織ちゃんに手を差し伸べながら言った。
「ひとまず落ち着いてるみたいだし……下ろしていいぞ」
「そう」
蒼は香織ちゃんのカバンを両手に持ち、少し離れたテーブルの上に置く。そして、戻ってくると、さっきまで蒼が座ってた場所に香織ちゃんを座らせた。
「咲葵、ちょっと自動販売機行ってくるけど何か欲しものある?」
「カフェオレ!」
「あれ、あまくね。しかも、一応病人だろ」
「いいの!飲みたいの!」
「香織はどうする?」
「レモンで」
「オッケー、じゃ買ってくる」
そう言って、扉を閉めて出ていった。わたしはずっと気になっていたことを香織ちゃんに聞みる。
「蒼って呼んでるね、前はそんなことなかったの」
「仲良くなったから」
「そうだったんだ、よかったぁ。二人仲良くなってくれるとわたしも凄く嬉しいよ!」
「なんで」
「だって、わたしの好きな人同士が仲良くなってくれてるんだよ?わたしもうれしいの!そんなことよりも、いつ名前呼びするようになったの」
「蒼と海行ったの」
「海?」
「私たち三人が初めてそろった場所」
「懐かしいね。何話してたの~」
わたしは意地悪にニヤニヤしながら含みを持たせて聞いた。
「咲葵と喧嘩したことと、恋の作戦会議」
「あの時は、本当にごめん~」
両手を合わせて謝るわたしを真顔で見つめながら答える香織ちゃん。
「別に大丈夫」
「そんな、真顔で言われても~」
「諦めて」
「はい。でも、わたしこれからどうすればいいんだろう」
「咲葵」
「なに?」
いつもよりの真剣な口調で聞いてきてる気がした。
どうしたんだろう……改まって。
「病気……どこまで深刻なの?」
「え……え?いきなりどうしたの?」
明らかにいつもの香織ちゃんのまなざしとが違った気がした。
「いいから答えて」
「生まれつき体弱いのは本当で、その病気のせいでよく倒れるだけだよ」
「よく気絶する病気なんてきたことない」
「確かに珍しい病気だけど、めんどくさいだけで、そんな大した病気じゃないよ」
香織ちゃんの追及は止まらない。
なんで?急に……誰かに何か言われたの?
「なら、なんで」
香織ちゃんの声を遮るように私は強く言う。
「もしもっと多変な病気だったら、学校なんて行けてないし、明日退院なんてしない。それに、香織ちゃん何度もわたしが倒れて病院いってるの知ってるじゃん!」
香織ちゃんの声を遮るように、わたしは少し大きな声で言った。
少し強く、言いすぎちゃったかも……。
丁度その時、扉が開いた。タイミングよく蒼が帰ってくる。
「買ってきたぞ」
入ってくるや、そういい香織ちゃんにはレモンジュース、わたしにはカフェオレ。
わたしは受け取ると、さっそく蓋を開け、同時に漂ってくるいい香りに顔を綻ばせる。
これこれ!好きなの~
一口、二口と続けて飲み一気に二割ほど減った。
「ああ、おいしー」
「あんっま」
そう言っている蒼に目を向けると、わたしと同じカフェオレを飲んでいた。
「あー結局蒼も同じの撰んでいるじゃん!」
「久しぶりに飲んでみようと思ってさ」
蒼はわたしに答えつつも、もう一口飲んだ。
もう三割ほど飲んだんじゃないかな……蒼は一口が大きいよ!
「うん、一口で満足だ」
蒼は、蓋を閉めるとカバンの中にカフェオレを閉まった。
それから、三人でたわいのない話をする。時間はあっという間に過ぎていき、室内に面会時間の終わりを告げるアナウンスが響き、会話がいったん止まる。香織ちゃんと蒼はそれぞれの荷物をお持ちお別れの挨拶をした。
病室に一人取り残されたわたしは小さな声でつぶやいた。
「大丈夫……」
もう一度カフェオレのキャップを開け一口飲む。
「あま」
誰もいない、誰も聞いていない、わたしの声が寂しく響いた。
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