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2話 病院
「あ…あれ……」
目が覚めたら見慣れない部屋にいたわたしは頭を整理するためにしばらく唸る。そして、すぐにここが病室だという事を理解した。
どーして病院にいるんだろー。
記憶を探るために、大げさに考えるポーズをとる。
「あ、起きたか」
突然の声に心臓が跳ね上がり、思考が飛ぶ。ただ誰の声かは簡単に分かった。
その声の方へ顔を向けると、蒼が小さく手を振っていた。
やっぱり、いたんだ、蒼。なんか懐かしいなぁー。前にもこんなことあった気がする、小学生ぐらいの時に……。
そんな昔のことを思い出していると、わたしのことを察してか説明してくれる。
「家で倒れたんだよ、お前」
そーなんだ、倒れたんだ。倒れたんだっけ?
当時のことを思い出そうとしているわたしを見た蒼は、更に説明してくれる
「頭に包帯巻いてあるだろ、倒れて頭怪我したんだよ」
そう言いって蒼は自分自身のおでこのあたりを指さして見せる。それを聞き私はそっとおでこへと手を伸ばした。すると、確かにそこには包帯があり、それと同時に頭に包帯が巻かれている感覚が出てくる。
うわぁ、本当だ。頭ぐるぐるに巻かれてるよ。
「なんか、また蒼には迷惑かけちゃったね。ごめん」
すると、少し驚いたように蒼から言葉が返ってくる。
「え、なんだなんだ!?急にどうしたんだよ」
そんな蒼の様子を見ていたら、不思議とくすっと笑えた。
「いや、昔もこんな事あったなぁ~って」
そう言ってわたしは昔を思い出すかのように、日の暮れた夜の景色を見つめた。
「小学生の時か」
蒼も思い出したのか窓の方を見つめる。わたしは窓から反射して見える蒼の顔を見つめていた。
そう七年前のあの時……。小学五年生の時も、たちくらみで倒れて頭を打った事があったなぁ。病院に運ばれたわたしを蒼は日が暮れてもいっしょにいてくれた。泣いてるわたしの傍にいてくれて、その時はとても嬉しかったなぁ。
そんな事を思い出していると蒼が席を立つ。すぐに振り向くわたしを見て蒼は笑顔で答えた。
「親呼んでくるよ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
そう言って蒼は扉の方へ歩いて行くと手をあげて じゃっ と、短く答えた。蒼がでて行った後も少し扉を見続けて思い出す。
そーいえば、蒼にお礼言ってなかったな、あの時も。ありがとうってまだ一度も言ってなかったかも……今度あったら次こそはちゃんと言おう 。
次の日の朝、教室の椅子に座る咲葵。
「おう、おはよーお⁉」
そう驚きながらもいつものように挨拶してくるのは蒼だった。
「あ、うん」
そんな私はというと、机に顔をうずめていた。
あー眠い…眠いなぁー。
「え、ちょっ…いや……、なんでいるの?」
ふふふー、驚いてる驚いてる!実はあの後すぐに退院して家に帰ったのだ!特に異常もないみたい。
「まぁねー」
と、どや顔で返すもすぐに机へ顔をうずめる。
眠たさに負け頭が回らないのと回したくない……結論眠りたいので寝ます。
すると、蒼はいきなりわたしの頭に手を乗せるとぐしゃぐしゃっと、髪の毛をかき荒らした。
「ちょ、なにすんのよ」
そう言って蒼の手を払いのけて顔をあげる。
「お、目覚めたか。おはよう」
蒼はそう笑って答えた。
「起きてるよ、せっかくセットしてた髪が台無しになっちゃうじゃん」
もぉー、蒼のやつ。調子のってぇー。
「お前が髪のセットだと?そ、そんな馬鹿な」
「馬鹿にして~、こことか!」
蒼はわたしの指さした右の後ろの髪を見たあと真顔で答える。
「あぁ、寝癖を治したのね」
「いや、違う。髪の型をセットしてたの」
それに対し蒼はわたしの顔へ手を伸ばした。
え、なにするの⁉
そんな事を思っても突然の事で体が動かない。蒼は頬の横にある髪の毛に手を伸ばし寝癖の所を押さえるようにやさしく触る。
なにか悲しく儚いようなでそれでも嬉しそうな顔で答えた。
「そっか、お前も女の子だもんな。可愛いくなったな」
なにが『お前も女の子だもんな』よ、当たり前じゃん。前から女の子ですよ、もぉ…………………………。
「そ、そーですよ!」
そう言ってまた机に顔をつける。
はぁ、全くもぉー………………。寝れないじゃん、恥ずかしい態度させて!
少し早めに授業は終わり生徒達は思い思いの事を始める。次は昼休みに入るため、わたしも購買でパンを手に入れる為に席を立った。
すると隣の席の蒼が声をかけてくる。
「咲葵、学食?」
「うん、まーそーだけど?」
少し違うけど、同じようなものだから訂正はしなかった。そのまま教室の扉に向かって足を動かし始めるとわたしを呼び止める女の子の声がした。
「咲葵」
足を止め振り返ると一人の女子生徒がこちらに向かってきた。
「あ、香織ちゃん。ごめんごめん、忘れてた」
彼女は里見香織(さとみ かおり)。小学四年生からの友達、っていうか親友。元気で明るいわたしとは真逆な静かでクールな女の子。実はわたしも香織ちゃんの笑ってる姿、泣いてる姿を見たことがない。あ、でも付き合いは長いから何となく感情を読み取れるようになってきました!完全に両極端なわたしたちが何でこんなに仲がいいのか、いつもみんなに不思議がられる。 香織ちゃんは普段は弁当だけど今日は寝坊して弁当を作れなかったみたい。
前の休み時間の時、一緒にお昼食べようと言われていた。それをすっかり忘れてたわたしは頭に手を当てながら笑った。そんなわたしを香織ちゃんは特に表情を変えることなく真顔で見つめる。
「行こ」
香織ちゃんは短く言い残し歩き始める。
「行こー!」
咲葵もグーの手を天井に伸ばしながら、香織の横に並んでついていった。そんな状況を目の前で見せられている中、俺そっと声をかける。
「あ、あの~」
俺の声を遮る様にチャイムの音がなった。
「あ、なったよ。急がなきゃ!」
咲葵の言葉に香織は黙ってうなずく。
「よーし、走っしれー」
咲葵の元気な掛け声と足音が廊下に響く。それに続くようにして香織も無言で咲葵の後を追った。
「廊下を走るなー」
そんな教師の声が遠くの方からかすかに聞こえてくる。一人教室に取り残された俺は、ため息をつきながら席を立った。
「俺の話聞けよ」
愚痴るように一人言い捨て食堂へ向かった。
「「はぁはぁ」」
二人して息が上がり呼吸が収まるのに少しの時間がかかった。
「わたしも食堂にするよ」
わたしは香織ちゃんにそう言って食券を買いに行く。少し歩いてから隣をついて歩く香織ちゃんに声をかける。
「そーだ。香織ちゃんは買ったんだっけ?食券」
「買った」
「へー、ちゃんと休み時間に買ったんだ」
「早めに買いに行った方がいいって」
「えー誰に?」
「五十嵐」
「へー、蒼が……。香織ちゃんは、なんの定食選んだの?」
そんな会話をしている間に、食券機の前についた。
「A」
「ほほー、じゃ私はBにしょっ」
食券を買ったわたしと香織ちゃんは一緒におぼんに乗った定食を受け取る。
「学食食べたことあるの?」
「初めて」
「そっか、わたしは一年ぶりぐらいかなー。今までは購買だったし」
空いている席にお互い向かい合って座り二人同時に手を合わせる。
「「いただき」」
「あ、香織に……この前の咲葵さん?」
そう、わたしたちの言葉を遮ったのはあの……あの……あの樹くんだった。な、なんでここに!え、ちょっと……え。
「ここ、ちょっといいかな」
そういって樹くんはわたしの隣に座った。
わたしの確認とってないのに座った!だけど、樹くんなら許す!そんなことよりも、その強引さがステキ。
香織ちゃんが慣れたように樹くんに質問をした。
「いつも学食?」
「うん、まーそうだね」
そう言って手を合わせるとご飯を食べ始める。ご飯を食べ始めると同時に会話もなくなり、変に静寂を意識してしまったせいで気まずさが増していく。
香織ちゃんがいても気まずいよ……。しかもさっきの感じ知り合いっぽかったし。
わたしは少し大きな声で話を切り出した。
「少し思ったんだけど、香織ちゃんと樹くんはどういう関係」
あ、この振りはまずいよ。
と、言った後からわたしは焦り始める。
ああ~何言ってるの、わたし。やばいよ今のわたし、冷静にならなきゃ冷静に冷静に。
二人は同時にわたしを見ると、香織ちゃんの方が先に答える。
「私バスケ部のマネージャー」
ふーん、そーなんだ。ん?
香織ちゃんの言葉の意味が遅れて伝わってくる。
「え……ええ!」
完全に心から漏れ出た。
え……いつの間に!っていうことは樹くんがバスケ部の部長だから、バスケ部のマネージャーの香織ちゃんは……すっごい接点あるじゃん!そんなの聞いてないよ~。
わたしは香織ちゃんに目で訴えるが、いつも通り無表情。
「ごめんごめん、言うの忘れてた」
無表情アンド片言の謝罪が返ってきた。
「もぉ、ほんとびっくりした」
そう言ってご飯を口に運ぼうとした時、聞きなれた声が聞こえてくる。
「里見、ここいい?」
「いいよ」
「蒼!なんで」
香織ちゃんの声を遮ってわたしは叫んだ。
蒼は隣に座っている樹くんを少し見つめた後、またわたしを見つめていう。
「昨日、お前の為にいろいろしたから飯作れなかったんだよ、朝時間なくて」
うう、面目ない……。
わたしはただ呻くしかなかった。そんなわたしを置いておき、樹くんが蒼に笑顔で挨拶する。
「長谷川樹です、よろしく」
「俺は五十嵐蒼、よろしく」
蒼は自己紹介を終えると香織ちゃんの隣に座ると樹くんが声をかける。
「蒼さんはなんの部活入ってるの」
その蒼への問いに、わたしが代わりに答える。
「帰宅部でしょ」
「お前と一緒にするなサッカー部に入っとるわ」
わたしはまたも、驚いた表情を見せる。
「センター」
そう補足する香織ちゃん。
「ああ、よく知ってるな」
「ええ」
わたし、蒼のことそういえばなんにも知らなかったんだなぁ。香織ちゃんのことも知らなかったし、わたし……かなりやばい。
わたしは苦し紛れの言い訳をする。
「去年の春、言ってたじゃん!まだ入ってないって」
「いやいやいや、早すぎるだろ!判断」
蒼の意見などお構いなしにわたしは続ける。
「部活入ったことぐらい教えてくれたっていいじゃん」
「いや、教えたぞ」
「嘘だ、わたしが忘れるわけない」
わたしは頑固に言い切ると。
「そうだね」
そう言ってくれたのは香織ちゃんだった。
「ほらー、香織もこう言ってるー」
「いや、棒読みだったじゃねーかよ」
そのやり取りを聞いていた樹くんがわたしに聞いてきた。
「ところで咲葵さんと蒼さんはどんな関係?」
香織ちゃんはわたしを見て説明を促す。わたしはうなずくと隣にいる樹くんに言った。
「蒼とは昔からの腐れ縁、ようするに幼馴染」
「へーそうだったんだ、だからそんなにも仲良さそうに」
「え?全然そんなことないよ」
「そうなの?」
咲葵は樹くんの勘違いを大きく否定する。そんな咲葵を見ている蒼は見ていた。みんながご飯を食べ終わると樹くんはポケットから遊園地のチケットを取り出した。
「これなんだけど、僕が持ってても仕方がないからあげるよ」
わたしは樹くんから渡された四枚のチケットを受け取った。そのうちの一枚を樹くんに返して言った。
「よかったら一緒に.……」
すると、蒼は席を立ちながら言った。
「じゃ俺はこれで」
香織ちゃんとわたしは、少し驚いたように眉をひそめ蒼を見つめる。
「蒼も一緒に行こーよ、四枚あるし!」
「いやいいよ、他の人誘いなよ」
蒼は樹くんの瞳をじっと見つめ、樹くんも蒼から目を離さずじっと見つめる。わたしは香織ちゃんと見つめあい小声で話す。
「なんかやばい空気じゃない?」
「そんな感じ」
あまりいい空気じゃないと感じたわたしは蒼を説得させるためにテキトウな事に言う。
「いいじゃん、蒼。約束?とか……だってあるしさ!」
ドキドキしながらわたしは蒼の返事を待つ。そして、しばらくしてから蒼は一度わたしを見た後に樹くんをみてうなずいた。
「わかった、俺も行く。その代わりに樹も来いよ。それと、さんはやめろ呼び捨てでいいから。あと部活の予定もあるから早めに教えてくれ」
「うん、わかった」
蒼の言葉に樹くんは笑顔でうなずく。
笑顔でうなずいてくれたよ、樹くん!やっぱり優しくてかっこいい!
香織ちゃんが言う。
「いつにするの」
「そうだね。急だけど明後日とかどうかな」
「大丈夫」
メモ帳を取り出した香織ちゃんが答える。
すごい!ちゃんとマネージャーしてる。読書家の香織ちゃんの事だから、本とかかと思ってた。樹くんの部活のマーネジャーの香織ちゃんなら部活の予定も分かるのかな。
そう思って香織ちゃんに聞くとただ黙って頷いた。
「蒼は大丈夫?明日」
「ああ、その日はOKだ」
「それでは、また今度。もし何かあったら香織にお願い」
何か急ぎの予定でも入ったのか、スマホを一目みてから樹くん速足では食堂を後にした。
樹くんの部活のマネージャーをしている香織は樹くんの連絡先を持っているので、そこで細かい予定を立ててもらうことに。予定ができたら香織ちゃんがわたしに連絡し、わたしが蒼に連絡するということになった。
こんなめんどくさいことしないで連絡先を樹くんと交換すればいいけど、樹くんは先に教室に帰っちゃったし、相手の連絡先は直接本人から聞いた方がいいよね。
わたしの意見で連絡先は、明日遊園地で遊ぶ時に交換することになった。
「じゃ、教室に戻ろっか」
わたしはそう言って三人で食堂を後にした。
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