4話 遊園地

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4話 遊園地

ピピピ   ピピピ  いつもより朝早くスマホの目覚まし時計に起こされたわたしは、布団から手だけを伸ばしアラームを止める。そして、また布団に手を引っ込めようとした所でパッと目が覚めた。布団から飛び降りるとスマホを手に取り確認する。 「危ない、今日じゃん‼遊園地」 「いってきまーす」  そう言ってわたしは家をでた。 こんなに早く家出るの珍しいなぁー。  そんなことを思いながら上からさす強い日差しに眩しそうに腕で目を隠す。  それから少し歩くと……。 「さぁーきっ‼」 「うわぁ、びっくりしたぁ‼」  肩にいきなり手を乗せ、声をかけてきたのは蒼だった。蒼はいつも通り朝から爽やかな笑顔をわたしに向けてくる。 蒼って正直暑苦しい所もあるよね、うん。 「そんなに、睨まなくてもいいだろ。今日は楽しまないと、笑顔が大切だろ」  目の前を通り過ぎて先に進む蒼の背中を見て、わたしは慌てて後ろを追いかけ隣に並ぶ。 「ちゃんと起きられたのな、お前」 「あたりまえでしょ」 「ならメッセージ送ったけど見なかった」  それ聞きわたしはポケットからスマホを取り出し確認する。 「あ、本当だ。ごめんごめん、急いでたの」 「まぁ、察しはつく」  蒼は遠い目でわたしを見つめる。 「なによ!」 「いやいや、かわいいなって思っただけだよ」  両手を前に出して左右に振りながら否定する。  かわいい、と言う言葉に少し恥ずかしさを覚えながらも蒼に言う。 「ありがとう。今回は頑張ったからね」 主にヘアセットと化粧‼ 「でも、蒼こそあんまり乗る気なかったみたいなのに、今日はずいぶんと楽しそうにしてるじゃない」 「いや、あれはちょっと……。まあ、いろいろ考えてたんだよ。でも答えは出たし、すっきりしたからさ」  ほんとにスッキリしたんだろうな、態度からも伝わってくる。なによりも楽しそうに輝いている蒼の瞳が、蒼の表情が好きだった。蒼、いつも本当にありがとう。 「おはよう」  遊園地の前で樹くんと香織とわたしと蒼は合流した。周りにはもうちらほらと人がいる。 「結構朝早いのに、こんな遊園地にも人結構くるんだな」  少し驚いたようでボソッと声を漏らす蒼の言葉を樹くんが拾った。 「だいぶ人きてるよね、僕が来る前からこんな感じだったから、中にはもうたくさんいると思う」  すると、香織ちゃんがわたしの前に近づいて2枚のチケットを渡してくる。 「これ」 「ありがとう」  そう言って受け取ったチケットの一枚を蒼に渡す。みんな一枚ずつ持っているのを確認したあと、私たちは遊園地の中へと入って行った。  みんな受付を済ませてから、正面の広場の方へ樹くんが先頭になり歩いていく。みんなもそれに続き歩き始めた。  少し歩くと樹くんは後ろを振り向きみんなの顔を見ながら聞く。 「それでは、最初に何乗ります?」  回答を求めるべく自然と視線が蒼へと向く。蒼は一人少し離れた所に立ちわたしと香織ちゃんを黙って傍観していた。次に隣にいる香織ちゃんに目線を向けると冷たい真顔で見つめ返される。 え……わたしにふるの?なんでもいいよ……。でも、まぁ自分が乗りたいやつ言っちゃお!最初から飛ばしちゃおー‼ 「ジェットコースター‼」  わたしがそう言うと樹くんは手元にあるパンフレットで場所を確認してから、こちらに顔を戻しわたしに言う。 「開幕ジェットコースター、良いね」  わたしの選択に樹くんは優しく微笑んでくれる。蒼と香織ちゃんからはいつもの通りの返しが返ってきた。 「……」 「好きだな、お前」 「いいのいいの、さっ行こ行こー」  そう言って咲葵が前に出てどんどん進んでいく。咲葵を追いかけるようにしてみんな咲葵の後をついて行った。  ジェットコースターの最後列を見つけるや否やわたしは一目散に駆けて行く。そして、最後列からみんなの方に振り向き両手を振りながらぴょんぴょん跳ねていた。 「早くー!ここだよー」  咲葵の無邪気な姿に、三人の空気は明るくなる。 「他の人にも悪いし行こう」 「ああ、さっさと行こうぜ」  樹くんの言葉に蒼は自然と返し三人は駆け足で咲葵のもとへ向かった。  ジェットコースターの列は二人ずつで並んでいて、咲葵と樹くんが隣同士で前に並び、その後ろに蒼と香織が並んでいた。 「楽しみだね!わくわくするね!」  咲葵は隣にいる樹くんの方を見て、目を輝かせながらいう。 「そうだね」  やさしく返す樹くん。  蒼はそんな咲葵の無邪気な明るい顔を、我が子を見るようにやさしく見つめていた。その顔を見ていた香織は蒼に目線を向けず、ただ前を向きながら静かな声で言う。 「五十嵐はそれでいいの……」  唐突な言葉に蒼は驚いて隣にいる香織を見つめる。相変わらず無表情のまま香織は前を向いていた。 「え、なんだよ急に……。こんな遊園地のジェットコースター怖いワケないだろ。お前こそ大丈夫か?無理だけはするなよ」  目を大きく見開いた香織は蒼の方を向く。いつもと違う態度に驚いた蒼は、香織に顔を近づけ心配そうに聞いた。 「おい、本当に大丈夫か?」  香織は直ぐに前に向き直ると、少し下を向きながら吐き捨てるように言う。 「ばか」  彼女の声は誰にも聞こえることはなく、遊園地の雑音の中に消えていった。  しばらくたって、咲葵と樹くんの前にいた二人組がジェットコースターに乗り込み出発した。 「もうそろそろだね!」  振り返りみんなにも見えるように目を輝かせながら言う咲葵。 「わかったわかった」 そんな蒼の返事を無視して咲葵は続けた。 「列どうする。わたし最前列だけどいい、変わる?」 「いいよこのままで」 香織ちゃんありがと~、やったよ!樹くんと隣同士で最前列だよ!楽しいし、幸せだし神様って本当にいたんだね。  咲葵がお花畑を満喫している間に次の番が回ってきた。 「ごめん」  香織の腰に手を当てながら蒼は言う。 「いいよ。それより大丈夫か?」  ゆっくり歩く香織を支えながら俺は、フードコートのトイレの近くの席に座った。  二人で席座ると同時に、香織が勢いよく立ち上がった。いきなりのことに驚き香織に声をかける。 「どうしたんだよ」 「トイレ……」  それだけ言い残すと近くのトイレに駆け込んでいった。トイレの近くの席にしておいてよかった。  咲葵と樹は今頃ジェットコースターを満喫しているところだと思う。一回目のジェットコースターを乗った後、香織がダウンしてしまい一人おいていくわけにもいかなかったので、俺は付き添うことにした。咲葵には樹と楽しんでもらいたい。それに、意外とあのジェットコースターは怖かった。小さな遊園地だからと思い完全になめていた。少し酔ったしな……。 「よし。気分転換にアイスでも食べるか」  立ち上がると同時にぼそっと独り言を漏らした。 「あー楽しかったー」 「そうだね。本当に楽しそうでよかったよ」  ジェットコースターを楽しんだわたしに樹くんはやさしく笑って返してくれる。  一通のメッセージに気が付いたわたしはスマホを取り出し連絡を確認する。 「みんなフードコートにいるって。それと……トイレの近く」 「うん」  二人で並んでいくとテーブルの上でうつぶせになっている香織と蒼の姿があった。 「ええ?どうしたの⁉ふたりとも大丈夫?」  驚いてあたふたしているわたしに蒼は右手を挙げて答える。 「ああ。アイス食べておなか下した」 「蒼くんのせい」  そう、香織ちゃんも答えてくれる。 「樹くんと話して、そろそろお昼にしようかなって。食べれる?」 「ああ」  香織ちゃんは賛同するように黙って手だけを上げる。わたしは香織ちゃんと蒼から何を食べるか聞いて注文しに行った。そして、四人分のそれぞれのメニューが届いてからみんなで食べた。  食後、わたしがみんなに聞いた。 「次はどうする?」 「コーヒーカップでもいこう」  そう言った蒼にわたしは訝しい目線を向ける。 「大丈夫?二人とも」 「ああ」  香織は黙ってうなずいった。 「それならいいけど……ではー、早速行きましょー」  咲葵は片手をグーにして空に掲げると、もう片方の手で樹くんの手を握った。駆け足でかけていく咲葵に引っ張られるように樹くんはついて行く。蒼は香織の顔を見ると微笑んで言う。 「結構うまくいってるな。咲葵……樹と手つないでること気づいてんのかな」  そんな蒼とは対照的に真顔で見つめ返す香織は、もう一度咲葵と樹の後ろ姿を見ながらいった。 「さあ」  コーヒーカップの前までついたみんなはそれぞれ顔を合わせる。その中で最初に話を切り出したのは蒼だった。 「二組ずつ別れないか?」 「僕は別にいいけど」  樹くんが蒼の言葉に賛同していると、コーヒーカップで働いている従業員の方が、次のかた~と案内をしてくる。 「あ、二人で」  そう言って香織ちゃんは蒼を連れて、二人で先に乗ってしまった。 「僕たちはこっちのコーヒーカップに乗ろう」 「うん」  樹くんはそういってわたしの手を握って連れてってくれる。 うそ、手。私の手。握ってくれた、引っ張ってってくれた……。香織ちゃん、本当にありがとね。  コーヒーカップに乗ると樹くんから声をかけてくれる。 「咲葵はコーヒーカップすき?」 「も、もちろん」  周りの人たちを見ると、カップルっぽい人たちがたくさんいた。 他の人たちには私たちってカップルに見えるってこと?え、やばいよそれ……。いいの……いいの?樹くん。  意識しちゃったせいか、顔がだんだん赤くなっていくのを感じる。そんなことをごまかす為にわたしは勢い良く回し始めた。 「全然楽しい、楽しいよー」  そう言って回している腕に一層力が入る。 「ねえ、あれ」 「あ?」  蒼は香織の目線の先を見ると、そこにはものすごい速度で回転している咲葵と樹の姿があった。 「何やってんだあいつら」 「馬鹿同士お似合い」  蒼に対し私は小さく漏らした。 「ああ~目が回るよ~」 「ええ、ほんとに……」  ふらふらしながら進むと下を向きながら眉間を抑えている樹くんが言う。わたしを香織ちゃんが支えながら進み、樹くんの横には蒼が背中に手を添えている。 「あんな速度で……」 「だって~」  わたしは香織ちゃんに抱き着きながら駄々をこねる。 「樹、大丈夫かー」 「ごめーん」  蒼の質問にわたしが大きな声を重ねた。 「ええ、全然気にしないで……」  樹くんの返事に香織ちゃんが意地悪にわたしの顔を見ながらいつもの真顔で棒読みで言う。 「返事……弱いね」 「二人してわたしをいじめないでよー」 「はは、は……」 「樹くーーん!」  蒼と香織ちゃんのノリに乗ってか、力ない樹くんの返事が途絶え、わたしはただ叫ぶしかなかった。
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