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5話 告白
わたしと樹くんは香織ちゃんと蒼が座っていたフードコートの同じ席に座っていった。
「樹くん……ごめん」
「大丈夫だよ」
そう、やさしく答えてくれる樹くんにわたしは顔を合わせることができなかった。
わたし……一人でずっとしゃいで楽しんで、樹くんのこと気遣えてなかった。わたしばっかり楽しんじゃってた…………。そうだ、今だ……今謝らないと。
「ううん……違う。そうじゃないの」
樹くんはわたしの言葉を黙って聞いてくれる。本当は顔を見て謝らないといけないのに、怖くて顔をあげれない。
でもこのままじゃダメ、香織ちゃん、蒼がわたしに何度も助けてくれてる。このままじゃいけないから‼
わたしは勢いよく顔を上げて樹くん顔をちゃんと見る。樹くんはわたしの瞳をただ黙ってじっと見ていった。
「購買で助けてくれた時も夜途中まで送ってくれた時も、わたしお礼言えてなかった。だから改めて、ありがとう。ごめんなさい」
わたしは目をつむりながら頭を下げた。すると。樹くんはわたしの両肩に優しく手を添える。
「顔をあげて。全然そんなこと気にしてないよ。でも、ずっと思っててくれたんだよね。ありがとう」
わたしが顔を上げると安心したように、樹くんは微笑んだ。
「それに、咲葵といると本当に楽しい」
そう言って笑った樹くんの顔は、とっても無邪気でわたしが見たことない顔だった。
「お~い。治ったか~」
少し離れたところから蒼の声が聞こえる。そっちの方に目線を向ければ隣には香織もいた。私たちが休んでいる間に、二人で楽しんできてたみたい。よかった――。
「元気だよー!」
蒼に向かってわたしは立ち上がり手を振った。
香織ちゃんと蒼が合流してから、次は何をするのかの話し合いになった。すると、以外にも香織ちゃんが口を開く。
「そろそろ観覧車いかない。並ぶタイミングを考えても丁度いいと思う」
「そうしよっか」
と、樹くん、もちろん誰も反対などしなかった。観覧車に着いた私たちは列に並んで順番をまった。
私たちの番が回ってくるまで、みんなで楽しく話していた。
意外と蒼と樹くんも仲良くおしゃべりしててびっくり。最初は少しぎくしゃくしちゃってたから少し心配だったな――でも、二人仲良くなってくれて嬉しい!
いつの間にか私たちの順番が来ていた。ちょうど外もかすかにオレンジ色っぽくなってきている気がする。
わたしの隣には蒼、正面には樹くん、その隣に香織ちゃんが座る。みんなそれぞれ外の景色を見るけど、ゆっくり上がりあまり変わり映えしない景色に飽きてしまう。室内に目線を戻すとみんなと目が合ったがあった。
気まずくなりたくないなーって思って、空気感を変に意識してしまったわたしは気を紛らわすように咄嗟に話題を振る。
「ねぇねぇ、恋バナしよ!好きな人とかいるの?……蒼」
わたしは隣に座っている蒼を見ながら笑って聞く。勢いよく振り向いてくる蒼は目大きくしながらこちらを見てきた。
ご、ごめん蒼。気まずくなるの嫌で、咄嗟に話題だしたけど、出す話題間違えた……。だから蒼に振った、ごめん!
苦笑いするわたしを察してくれたのか、すぐに視線を戻した蒼は少し間を取ってから話し始めた。
「俺は……いるよ。一応……」
そんな蒼の言葉にわたしは驚き開いていた口を思い出したように噤む。
いつもそんな雰囲気全然出してないのに……絶対にないと思ってた。そっか、蒼も恋してるんだ、わたしと一緒だったんだ。
思い出したように大きな声をかける。
「意外!蒼もこ恋するんだー」
「あーうっさい。いないって言えばよかった」
そんなこと言っても蒼は絶対嘘はつかないことをわたしは知ってる。そういうところが好きなの………………と、友達としてね……うん。
「でも、なんで一応なの?」
蒼は外の景色を眺めながら答えた。
「叶わないからだよ。それに……」
自分勝手ってわかってる。我がままだってわかってる。それでも、きっと蒼のためになる!
そう思ってわたしは我がままに、自分勝手にこわばった声で返した。
「蒼らしくないじゃん!」
違う、本当は違う。こんなこと言いたかったわけじゃない。わたしの背中を押してくれた蒼、いつも助けてくれた蒼。だから、そんな諦めた蒼の姿を見たら、わたしまで自信がなくなりそうで、怖気食いてしまいそうで……。蒼の前だとなんか我がままになっちゃうわたしがいた……。最低だね、わたし。
「仕方……」
だめ、その続きは言わないで!
「私もいる、好きな人」
蒼の言葉を遮るように言ったのは香織ちゃんだった。香織ちゃんはいつもの真顔だったけど、わたしに対して言ってきているようなきがする。
咄嗟のことに頭が回らず反応できずにいると、樹くんが口を開いた。
「そうなんだ、なんか意外だね。そういうの興味ないと思ってた」
部活のよしみである香織ちゃんは樹くんの方を見て答える。
「心外。そーいう系の本だってよむ……けど、まぁみんなが思ってるほどの恋はしてないけど」
樹くんは香織ちゃんの言葉を聞き終えると前に向き直る。樹くんとちょうど目線があったわたしは、とっさに目線をそらしてしまう。
ああああ、やっちゃったー。気まずいよ……。意識してしまったせいで、余計に気まずい……。
「樹くんはいるの?」
冷めた声で聞く香織ちゃんの言葉が頭の中でこだまする。
どうなんだろう。いるのかな、いないのかな。
緊張からか、すごく時間がゆっくりになっていくように感じる。そして、周りの音がどんどん遠ざかっていく。視界も狭まり、暗闇の中に独りぼっちにされたようなそんな感覚だった。冷静にならないと、冷静にならないと。そう思い、音を探す。すると、体の中心からドクンドクンと大きな心臓の音が聞こえ始める。意識がどんどんそちらに向き、音が大きくなり、鼓動も早くなっていく。意識を戻そうとすればするほど、さらに心臓の鼓動は早く大きくなった。ねぇ、お願い。止まって。心臓止まって。
「いないよ」
樹くんの一言がわたしを現実へと引き戻した。
よかった……。
そんな安心感がわたしの心を満たしてくれた。
まだチャンスがあるかもしれないよね?がんばれば、きっと……。
「というよりも、いらない……が、正しいかな」
樹くんはやさしくいった。
え、どういうこと…………わたしにはもうチャンスがないってこと。今まではしゃいでたの何だったんだろ。今までの行動が、今この時間が全て無駄に思えてくる。
その時、わたしの左手を蒼がやさしく握った。え、と思い蒼の方を見ると蒼は自信に満ちた顔でわたしを見つめていた。そして、わたしを掴む手に力が増した。
蒼の大きくて暖かい手から安心感が伝わってくる。大丈夫、咲葵なら大丈夫だ。そう、蒼に言われている気がした。
「咲葵はどうなんだよ。言いだしっぺだろ」
蒼は笑いないながら言った。
蒼の馬鹿……本当にかなわない。やっぱりすごいよ……すごい……ありがとう……。
わたしは前を向き直り、樹くん目をしっかり見据えながらいう。
「わたしはいるよ、好きな人」
樹くんは少し驚いたようにわたしを見つめた、そんな時だった。右側からさした赤い光が私たちを照らした。そこで初めて、私たちが頂上にいたことに気づく。山の間からこぼれ出る真っ赤な夕日を、私たちはただ見つめていた。
ちがう、言葉にできない絶景に私たちは心を奪われていたんだと思う。わたしはあきらめない、絶対にあきらめない。この夕日のように。最後の最後まで全力で輝いてやるんだ‼
そう思い、改めて樹くんの方を見つめた。
「え?」
誰にも聞こえない小さな声がわたしの口から漏れ出た。
真っ赤に染まる樹くんのほほに、一筋の光の線が見えた。樹くんは少したってから気づいたように袖でふき取る。
たぶんわたししか気づいていない。香織ちゃんや蒼からは死角になっていたと思うし、一瞬のできごとだったから。改めて、わたしは樹くんのことを何も知らないんだと痛感した。それに、聞けるようなことでもないなって思った。わたしにだって、誰にも言えないことがあるんだから…………。
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