2章 遺言状とプリン・ア・ラ・モード

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「私がきちんと管理しているので健康面には問題ありませんが、放っておいたら朝から晩までスイーツ三昧になるほどスイーツに目がないお方なので」 執事のそんな皮肉めいた視線と言葉にも、薫は一切動じないようだった。むしろ「好きなものを好きなだけ食べて何が悪いんだ」と開き直る豪胆ぶりである。 「程度というものがあるでしょう」 大きなため息をつく加賀美に、日頃の苦労っぷりが想像できた。だが、どちらかというと久志は薫側の意見の持ち主である。「まあ、いいじゃないですか」と、薫の肩を持ち間に入ると、「ほら、彼もそう言ってるぞ」と援護射撃を得た薫が得意げに笑う。 涼しげな表情の主人に恨みがましい視線を送っていた加賀美だったが、そんな執事に先制攻撃を仕掛けたのは薫だった。組んでいた足を解いて前屈みになると、にこりと笑って加賀美を見た。 「加賀美がしっかり管理してくれているから、僕は好きなだけスイーツが食べられるんだ。いつもありがとう、感謝してるよ」 そんな言葉とともに、この世の綺麗を詰め込んだみたいな笑みを向けられた加賀美は、一瞬フリーズしたあと、口元に手を当てごほんと咳払いを一つした。 「……そんな風に褒めたって、これ以上1日に食べるスイーツの量は増やしませんよ」 「ちょっとだけ」 「そ、それもダメです……!」 にこにこと笑う主と、眉間にシワを寄せる執事。薫とそんなやりとりをしている加賀美を見ながら、久志は、 「……これは絶対増やすやつだな」 と、そんな感想を呟いた。久志は薫に購入したケーキを持ってくれと言われたときのことを思い出し、彼の坊ちゃんぶりはこの執事が何かと甘やかしているからなのではと推測した。 「そんなことより紅茶も冷めますから、どうぞ」 加賀美の言葉に、久志は「待ってました」と言わんばかりの表情になる。「どうぞ」と促され、フォークと皿を手に持ち、早速「いただきます」と念願のミルフィーユをいただくことに。 「うっまぁ〜……」 食べた瞬間に口に広がるやさしい甘さ。久志はその味わいをじっくりと、噛み締めるように堪能した。 「苺の甘酸っぱさと、絶妙にマッチするこのクリームのほどよい甘さ……。パイ生地のサクサク感もたまらないな、これは」 人気店のスイーツにご満悦の久志と、なぜか自分の手柄のように「そうだろう、そうだろう」と、薫はうんうん頷いていた。
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